LUNA LLENA

郷ひろみ『LUNA LLENA』：1993年の音楽的到達点

1993年5月21日、ソニーレコードより発売された郷ひろみ28枚目のオリジナルアルバム『LUNA LLENA（ルナ ジェナ）』は、彼の音楽キャリアにおいて重要な位置を占める作品です。前作『CATALONIAN BLOOD』から約1年ぶりとなる本作は、プリンスやマイケル・ジャクソンといった世界的アーティストを手掛けたことで知られるTommy Vicariをレコードプロデューサーに、林有三をサウンドプロデューサーに迎え、制作されました。

このアルバムの最大の特徴は、鈴木雅之や安全地帯といった、日本の音楽シーンを代表するアーティストたちの楽曲をカバーしている点です。郷ひろみ自身の持ち味と、カバー曲の持つ魅力が融合した、聴き応えのある選曲がなされています。

収録曲は全12曲。それぞれの楽曲は、豪華なミュージシャン陣の演奏によって彩られています。アレンジは主に林有三が担当し、楽曲に統一感を与えています。郷ひろみ自身も数曲でボーカルに加え、バックコーラスとしても参加しています。

特に注目すべきは、安全地帯の「月に濡れたふたり」や、鈴木雅之の「たとえきみがどこにいこうと」といった、当時既に名曲として知られていた楽曲のカバーです。郷ひろみ独特の歌唱法と、林有三による洗練されたアレンジによって、これらの楽曲は新たな魅力を帯び、新鮮な印象を与えています。

また、原田真二の「見つめて Carry On」や楠瀬誠志郎の楽曲など、幅広いアーティストの楽曲が収録されていることも特徴です。これらの楽曲を通して、郷ひろみの音楽的な幅広さと探求心が伺えます。さらに、郷ひろみ自身の作詞作曲による楽曲も収録されており、その中でも「Fake」は、彼の音楽性の集大成と言えるでしょう。このアルバムを最後に、郷ひろみは作詞・作曲を自ら行うことはなくなりました。このため、『LUNA LLENA』は、彼のソングライターとしてのキャリアの終着点を示す作品と言えるでしょう。

参加ミュージシャンも、日本の音楽業界を代表する実力者たちが名を連ねています。ギターには松原正樹、梶原順といったベテラン勢に加え、若手の是永巧一なども参加。キーボードには藤本幸義、ドラムスには島村英二といった、当時の音楽シーンを支えたキーマンたちが集結しています。

さらに、フジテレビ系列ドラマ『正しい結婚』の主題歌として使用された「僕がどんなに君を好きか、君は知らない（リミックス・ヴァージョン）」は、アルバム全体の注目度を高める一因となりました。

『LUNA LLENA』は、郷ひろみ自身の音楽的成熟と、日本の音楽シーンの多様性を反映した、聴き応えのある作品です。豪華なミュージシャン陣、多彩な楽曲、そしてドラマ主題歌という要素が相まって、90年代の日本のポップミュージックシーンを代表するアルバムとして、高い評価を受けています。郷ひろみ自身の作詞作曲活動の最後を飾る作品として、その歴史的な意義もまた、非常に大きなものとなっています。様々なアーティストの楽曲カバーを収録することで、当時の音楽シーンのクロスオーバー的側面も示唆しており、音楽史における重要な位置づけを持つと言えるでしょう。

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