M109 (天体)

M109

M109（メシエ109、Messier 109）は、フランスの天文学者シャルル・メシエが編纂した天体カタログ『メシエカタログ』の最終版草稿に99番目の天体として記載されたものです。しかし、残念ながらこの天体は、メシエ自身によって出版された正規のカタログには含まれていませんでした。

メシエはカタログのM97（ふくろう星雲）の説明の中で、M109についてわずかに言及しています。「おおぐま座γ星の近くにある星雲」という簡潔な記述にとどまっていますが、草稿にはより詳細な情報が記されていました。それによれば、この天体は「おおぐま座γ星の近くにある星雲」であり、「赤経はγ星とほぼ同じで、赤緯はγ星から1度ほど南にある」とされています。また、発見者はピエール・メシャンで、1781年3月12日に発見されたことも記録されています。

この「メシエカタログ草稿に記された天体」が具体的にどの天体を指すのかについては、大きく分けて二つの説が存在します。

NGC 3992説

現在、M109として広く公式に認められているのは、おおぐま座の棒渦巻銀河であるNGC 3992です。

この同定は、1953年にアメリカの天体物理学者・天文学史家であるオーウェン・ギンガリッチによって行われました。ギンガリッチはメシエの草稿に記載されたおおよその位置情報から、古天文学的な計算を用いて1781.3年分点での天体の位置を「赤経：11時43分、赤緯：＋54.5度」と算出しました。しかし、実際にこの計算位置を調べても、該当する天体は見当たりませんでした。興味深いことに、ギンガリッチが算出した赤経は当時知られていた別の銀河、NGC 3953の位置とよく一致し、赤緯はNGC 3992の位置とよく一致していたのです。

こうした状況にもかかわらず、ギンガリッチは最終的にこの天体をNGC 3992であると同定し、自身の手によって「メシエカタログ」にM109として追加しました。この追加以降、NGC 3992がM109として扱われることが定着し、今日に至っています。

NGC 3953説

一方、ギンガリッチが算出した位置に実際の天体が存在しなかったこと、そしてメシエの草稿に記された記述との整合性から、M109はNGC 3992ではなく、おおぐま座の棒渦巻銀河であるNGC 3953を指しているのではないかという説も存在します。

この説の根拠の一つとして、メシエ自身が「おおぐま座γ星の南にある星雲」と記述している点が挙げられます。地図上で位置関係を見ると、γ星の南に位置するのはNGC 3953の方であり、NGC 3992はγ星の南西方向に位置しています。

2006年には、オランダの天文愛好家ヘンク・ブリルがこのNGC 3953説を改めて提唱し、新たな根拠を示しました。ブリルが注目したのは、1795年にパリで刊行された『フラムスティード星図』の第3版です。この星図はメシエの友人でもあったラランドと、M109の発見者とされるメシャンによって編集されたものでした。その星図には、おおぐま座γ星の南側に星雲を示すマークが記載されており、ブリルはこのマークがメシャンが発見したNGC 3953を指している可能性が高いと考えました。

さらにブリルは、NGC 3953とNGC 3992の見た目の明るさがほぼ同じである点も根拠として挙げます。天体の明るさは広がった全体の光度で評価されるため、光度が同じであれば、よりコンパクトな天体の方が単位面積あたりの光が強く、明るく見えやすい傾向があります。ブリルによれば、NGC 3953の方がNGC 3992よりも小さく、そのため発見当時の観測ではNGC 3953の方が目につきやすかったのではないかと推測しています。

また、ブリルは、メシエが1781年3月24日にNGC 3992を観測した際に、12日前にメシャンが観測したNGC 3953と混同してしまった可能性も示唆しています。

これらの議論があるにもかかわらず、今日では歴史的な経緯からNGC 3992がM109として広く認識されています。

M109銀河群

なお、NGC 3953とNGC 3992は、ともにM109銀河群 (M109 Group) と呼ばれる銀河群に属しています。この銀河群は、おおぐま座γ星、おおぐま座χ星、りょうけん座5番星などが囲む領域に散在する複数の銀河から構成されており、我々の属する局所銀河群の比較的近くに位置しています。

どちらの銀河が真のM109であるかという議論は、メシエカタログの歴史を物語る興味深いエピソードとして語り継がれています。

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