M3軽戦車

M3軽戦車：第二次世界大戦の「働き者」

M3軽戦車は、第二次世界大戦中にアメリカ合衆国で開発され、連合国軍が使用した軽戦車です。その信頼性と機動性から、様々な戦場で活躍しました。

愛称「スチュアート」と「ハニー」

M3軽戦車は、イギリス軍によって「ゼネラル・スチュアート」という愛称で呼ばれました。これは、南北戦争の南軍騎兵隊を率いたJ・E・B・スチュアート将軍に由来します。また、北アフリカ戦線で最初に本車を使用したイギリス兵からは、親しみを込めて「ハニー」（可愛い奴）とも呼ばれました。

開発の経緯

M3軽戦車の開発は、それ以前に開発されたM2軽戦車を基に、装甲の強化を目的として進められました。M2軽戦車は、スペイン内戦での実戦経験から、対戦車砲に対する装甲の脆弱性が問題視されていました。初期のM2A2では16mmだった前面装甲が、M2A4では25.4mmに強化されましたが、それでも十分ではありませんでした。そこで、さらに38.1mmに強化した新型軽戦車としてM3軽戦車が開発されることになったのです。

装甲の強化

M3軽戦車の開発では、装甲の強化が最優先事項でした。車体は後方に延長され、装甲厚の増加と車体の大型化に伴い、重量はM2A4軽戦車の11.6トンから12.7トンに増加しました。装甲はリベット接合とボルト締めでしたが、当時の溶接技術が未熟だったため、これは仕方のない選択でした。しかし、リベットが被弾時に飛び散り、乗員を傷つける危険性も指摘されました。また、装甲板に傾斜はつけられず、避弾経始は考慮されていませんでした。

武装

M3軽戦車は、M5 37mm戦車砲を搭載しました。初期生産型では駐退復座機が露出していましたが、後期生産型では車載専用のM6 37mm戦車砲が搭載され、駐退復座機は防盾内に収められました。また、車体左右袖部に固定装備された2挺の7.62mm機銃は、後に撤去され、開口部は塞がれました。主砲同軸機銃と車体前面右側、砲塔上面の3挺の機銃が主な武装となりました。

生産開始

これらの改良を経て、1940年7月にM3軽戦車として正式に採用されました。しかし、生産を担当するアメリカン・カー＆ファウンドリ社がM2A4軽戦車の生産を継続していたため、生産開始は1941年3月となりました。

生産途中の改良

戦場の状況変化に伴い、M3軽戦車は生産途中で様々な改良が加えられました。初期生産型では7角形のリベット接合式砲塔でしたが、後に溶接式砲塔に変更されました。さらに、馬蹄形の砲塔が採用され、主砲にはジャイロ・スタビライザー（砲安定装置）が追加されました。また、イギリス軍向けの最後期型では、車体も溶接式に改められました。

エンジン

エンジンは、当初コンチネンタル社製のW-670-9A星型7気筒空冷ガソリンエンジンを搭載していましたが、後にギバースン社製のT-1020-4星型9気筒空冷ディーゼルエンジンを搭載した型も生産されました。イギリス軍では、ガソリンエンジン型を「スチュアートI」、ディーゼルエンジン型を「スチュアートII」と呼びました。

バリエーション

M3軽戦車には、以下のような様々なバリエーションが存在します。

M3A1：ペリスコープを装備し、キューポラを廃止することで全高を低くした型。砲塔は動力旋回式となり、バスケットが採用されました。
M3A2：M3A1の車体を溶接構造とした試作車。
M3A3：車体を完全に溶接構造とし、前面装甲に傾斜をつけた最終生産型。M5軽戦車の影響を受けています。
M5：M3軽戦車にキャデラック社製のV型8気筒液冷ガソリンエンジンを搭載した発展型。
M5A1：M5軽戦車にM3A3の新型砲塔を搭載した改良型。

派生型

M3軽戦車をベースとした派生型も多数開発されました。

M3スチュアート改造 18ポンド自走砲：イギリス軍がM3スチュアートの砲塔を取り外し、18ポンド砲を搭載した即製自走砲。
T18 HMC：M3の車台上に75mm榴弾砲を搭載した自走榴弾砲の試作車。
T56 GMC/T57 GMC：M3A3の車台上に3インチ（76.2mm）高射砲を搭載した戦車駆逐車。
M3A3 w/PaK40：ユーゴスラビアのパルチザンが、M3A3にドイツ製のPaK40対戦車砲を搭載した車両。
ベルナルディーニ X1A：ブラジルで開発された、M3A1/A3の車体に新型砲塔と90mm砲を搭載した改造型。

配備と運用

M3軽戦車は、アメリカだけでなく、イギリス、ソ連、フランス、オーストラリア、中国など、多くの連合国に供与され、様々な戦線で活躍しました。

北アフリカ戦線

イギリス軍はM3軽戦車を北アフリカ戦線に投入し、その信頼性の高さから「ハニー」という愛称で呼ばれました。しかし、火力・装甲ともに不足しており、巡航戦車としては多くの損害を出しました。その後、偵察任務に回されるようになりました。

太平洋戦線

太平洋戦線では、フィリピンやビルマ、ソロモン諸島などでM3軽戦車が使用されました。特に、ビルマでは日本軍の九五式軽戦車を撃破するなどの戦果を上げましたが、新型のM5軽戦車やM4シャーマン中戦車の配備が進むにつれて、次第に前線から引き上げられていきました。

ソ連

ソ連にもM3軽戦車はレンドリースとして供与されました。しかし、ガソリンエンジン型であったため、ディーゼルエンジンを搭載した他のソ連戦車との燃料供給に問題があったとされます。

その他の戦線

その他、自由フランス軍や西部ポーランド軍、ユーゴスラビアのパルチザンなど、様々な勢力がM3軽戦車を使用しました。

日本軍での鹵獲運用

日本軍もM3軽戦車を鹵獲して運用しました。日本軍は、M3軽戦車を軽戦車ではなく中戦車と評価し、その性能を高く評価しました。特に、コレヒドール島要塞攻略作戦では、鹵獲したM3軽戦車が活躍したとされています。

戦後

M3軽戦車は戦後も一部の国で使用され続け、現在でもパラグアイ陸軍が訓練用として運用しているとされています。

登場作品

M3軽戦車は、多くのゲームや映画にも登場し、その姿を今に伝えています。

まとめ

M3軽戦車は、第二次世界大戦中に広く使用された軽戦車であり、その信頼性、機動性、そして数々のバリエーションと派生型から、戦史に大きな足跡を残しました。その愛称「スチュアート」は、今でも多くの人に知られています。

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