M60 (天体)

おとめ座の領域に広がるM60（NGC 4649）は、メシエカタログに登録された天体の一つであり、とりわけ巨大な楕円銀河として知られています。この銀河はおとめ座銀河団に属しており、その中でも質量が大きく目立つ存在です。銀河本体の周囲には、非常に淡いながらも多数の球状星団が存在し、まるで銀河全体を取り巻くかのように見えます。

M60の興味深い点の一つは、そのすぐ近くに位置する渦巻銀河NGC 4647との関係です。この二つの銀河は、天文学者ホルトン・アープによって特異銀河のカタログ「アープ・アトラス」に「Arp 116」として掲載されました。アープは、M60がNGC 4647に接近し、重力的な相互作用によって相手の構造に摂動を与えている可能性を示唆しました。おとめ座銀河団を構成する多くの銀河の中でも、M60は特に質量の大きな楕円銀河であり、2000年にハッブル宇宙望遠鏡によって行われた観測からは、その中心部に太陽質量の約20億倍にも達する超大質量ブラックホールが存在することが明らかになっています。

この銀河を観測するには、ある程度の機材が求められます。双眼鏡でその存在を捉えることは理論上可能ではありますが、非常に困難を伴います。口径10cmクラスの望遠鏡を用い、視野の広いアイピースで80倍程度の倍率で観察すると、同じくおとめ座銀河団に属するM59と共に同一視野内に捉えることができます。さらに口径20cmクラスの望遠鏡を使用すると、隣接するNGC 4647も分離して見ることができるようになります。口径が30cmにもなると、M59とM60の周辺に複数の銀河（報告によれば5つ）が集中している様子が確認でき、この領域が銀河団の中心部であることを実感させてくれます。

近代の観測としては、2004年1月28日には、リック天文台によってM60内でIa型超新星SN 2004Wが観測されました。超新星爆発は銀河の進化や宇宙の距離測定において重要な現象であり、M60のような巨大銀河で発生した事例は貴重なデータを提供します。

M60の発見は18世紀に遡ります。1779年4月11日、ドイツの天文学者ヨハン・ゴットフリート・ケーラーは彗星の追跡中に、M59と同時にこの銀河を発見しました。その翌日、イタリアの天文学者バルナバス・オリアニもM60を独立して発見しましたが、M59は見逃しました。さらに数日後の4月15日、フランスの天文学者シャルル・メシエがM58、M59、そしてM60をまとめて発見し、自身のカタログに登録しました。メシエは自身の発見記録に「M58、M59よりも明確に見える。これら3つの星雲には星が含まれていない」と記しています。

その後の観測者たちもM60に注目しました。イギリスの天文学者ウィリアム・ヘンリー・スミスは、M60を「二重星雲」として記述し、中心部の距離を約2〜3分角と推定しました。彼は先行する部分が非常に淡く、明るい部分がそれに続くと記し、メシエの記述は不完全であると述べました。また、スミスは、M60の北側と南側に一つずつ星が見え、93倍の視野では小さな星雲が多数見られる賑やかな領域であると報告しました。さらに、M59の北西には別の淡い部分（NGC 4647のことと思われる）が見え、実際には4つの星雲が一度に視野に入ることもあると述べています。ウェップもまた、M60を二重星雲として観測し、後続する（おそらくNGC 4647）部分は非常に淡く、口径3.7インチ（約9.4cm）の望遠鏡では見えなかったと記しています。彼は、広視野でM59の北西と南西に淡い天体が見えると述べており、これらの古い記録は、当時の観測技術の限界を示すとともに、M60周辺の複雑な構造を示唆しています。

これらの発見と観測の歴史は、M60が古くから天文学者の関心を集めてきた天体であり、その詳細な構造や性質が徐々に明らかになっていった過程を物語っています。今日では、地上および宇宙からの高性能な望遠鏡によって、M60の超大質量ブラックホールや銀河団内での進化、そして隣接銀河との相互作用など、より深い研究が進められています。

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