ホルトン・アープ

ホルトン・クリスティアン・アープの生涯と業績

ホルトン・クリスティアン・アープ（Halton Christian Arp, 1927年3月21日 - 2013年12月28日）は、アメリカ合衆国の天文学者です。ニューヨークで生まれ、ハーバード大学を卒業後、カリフォルニア工科大学で博士号を取得しました。その後、ワシントン・カーネギー協会やインディアナ大学での研究を経て、1957年から29年間パロマー天文台に勤務しました。1983年からはドイツのマックス・プランク研究所に籍を置きました。

アープの主な業績の一つに、特異な銀河を集めたカタログ「アープ・アトラス」の編纂があります。このカタログは、後にクエーサーに関する議論の根拠として用いられることになりました。また、アープは、クエーサーの赤方偏移が宇宙の膨張によるものではなく、非宇宙論的な起源を持つと主張し、ビッグバン理論に異議を唱えたことで知られています。

アープ・アトラスとその意義

1966年、アープは「アープ・アトラス」を出版しました。このカタログは、相互作用銀河や銀河の合体の様子を集めたもので、天文学者にとって重要な資料となっています。中には、赤方偏移の基準として用いられる銀河（例えばArp 220）も含まれています。アープ自身は、このカタログを銀河の形成過程を解明するための足掛かりとして利用しました。

クエーサーと赤方偏移に関するアープの仮説

アープは、「アープ・アトラス」に掲載された特異な銀河の中に、クエーサーとみなされる天体が含まれていることに気づきました。彼は、いくつかの写真において、クエーサーが銀河の手前に存在するように見えたり、銀河とクエーサーの間に「橋」のような構造が見られることを指摘しました。もしクエーサーと銀河が物理的に近い場所にあるのであれば、ハッブルの法則に従うと、両者の赤方偏移はほぼ等しいはずです。しかし、実際にはクエーサーの赤方偏移は銀河のそれよりも大きく、この事実は従来の宇宙論に矛盾するように見えました。

アープは、この矛盾を説明するために、赤方偏移が宇宙の膨張によるものではなく、天体固有の特性、つまり「固有の赤方偏移」であるという仮説を提唱しました。また、クエーサーが銀河の近傍に多く分布しているという観測結果から、クエーサーは活動銀河核から放出された天体であり、親銀河と同程度の距離に存在すると考えました。この仮説は、M87やケンタウルス座Aのような電波銀河によって補強されると主張しました。アープは、クエーサーの研究を通して、ビッグバン理論は誤りであり、銀河の赤方偏移は赤方偏移の量子化論で説明できると結論付けました。

アープの仮説に対する批判と現代天文学

アープのビッグバン理論に対する批判は1960年代に始まりましたが、その後、天体観測技術は飛躍的に進歩しました。ハッブル宇宙望遠鏡やケック天文台のような高性能の望遠鏡が開発され、CCD撮像素子も広く用いられるようになりました。これらの進歩によって、クエーサーは非常に遠方にある、大きな赤方偏移を持つ銀河であることが確認されました。また、多数の画像調査によって、遠方にあるクエーサー以外の天体も発見され、赤方偏移の効果が正しいとすれば、遠方の銀河のスペクトルは近傍の銀河のスペクトルと一致することが確認されました。これらのデータは、アープの仮説を直接的に否定するものでした。

現代の研究では、スローン・デジタル・スカイサーベイや2dF銀河赤方偏移サーベイから得られたデータを用いて、クエーサーの固有赤方偏移の仮説が検証されています。しかし、これらの調査の結果、アープが提唱したような周期的な固有赤方偏移の証拠は見つかっていません。

それでもなお、アープは、ビッグバン理論を批判する論文を発表し続け、ジェフリー・バービッジやマーガレット・バービッジと共同で、ビッグバン理論に反論する著作を出版しています。アープの理論は、主流の宇宙論では支持されていませんが、天文学における議論を活性化させ、新たな視点を提供する上で重要な役割を果たしました。

受賞歴

1960年 - アメリカ[[天文学会]] ヘレン・B・ワーナー賞
1960年 - アメリカ科学振興協会 ニューカム・クリーブランド賞
1984年 - アレクサンダー・フォン・フンボルト財団 フンボルト賞

参考文献

Halton Arp (1989). Quasars, Redshifts and Controversies. Cambridge University Press.
Halton Arp, Seeing Red, Aperion (August, 1998)
Halton Arp, Catalogue of Discordant Redshift Associations, Aperion (September 1, 2003)
G. Burbidge, E.M. Burbidge, H.C. Arp, W.M. Napier: Ultraluminous X-ray Sources, High Redshift QSOs and Active Galaxies. Preprint
J. Kanipe, D. Webb The Arp Atlas of Peculiar Galaxies, A Chronicle and Observer's Guide, Willmann-Bell Inc. (2006)

外部リンク

ホルトン・アープのウェブサイト
Apeiron, journal web site（アープが編集権を持つメンバー）
Publications by Halton C. Arp at the Scientific Commons repository
Atlas of Peculiar Galaxies
Arp's Catalog of Peculiar Galaxies website
Detailed review of Seeing Red by Tom Van Flandern
Electric Politics interview with Halton C. Arp (podcast)
Astraea Magazine interview with Halton C. Arp (podcast)
Preface to "The Arp Atlas of Peculiar Galaxies"
Author's Notes to "The Arp Atlas of Peculiar Galaxies"
Halton Arp directory page at the IAU
Oral History interview transcript with Halton Arp 29 July 1975, American Institute of Physics, Niels Bohr Library and Archives

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