M80 (天体)

M80（NGC 6093）

M80、またはNGC 6093としても知られるこの天体は、夜空のさそり座に位置する球状星団です。球状星団とは、数万から数百万個の古い星が球状に密集した、銀河系に付随する恒星の集まりを指します。M80は、特に星の密度が高いことで知られています。

観測時の見え方

M80は比較的明るい天体であり、観測する機材の性能によってその見え方が大きく変化します。双眼鏡でM80を視野に入れると、小さくぼんやりとした雲のような姿に見えます。口径が小さい望遠鏡でも、中心部がひときわ明るく輝いている様子が捉えられます。この強い中心光のため、シャルル・メシエが自身のカタログを作成した際に記録した多くの天体の中でも、M80は特に彗星と間違えやすい外観をしていることで知られています。

例えば、口径10cmクラスの小口径望遠鏡では、まだ個々の星に分解することは難しく、星雲や彗星のようなぼやけた姿として見えます。しかし、口径20cmクラスの中口径望遠鏡になると、その周辺部分では微かな星の粒がぼつぼつと判別できるようになり、中心部も星が極めて密集していることによるざらざらとした質感が感じられるようになります。さらに大型の口径40cmクラスの望遠鏡を用いれば、その高い解像度によって、星団の中心部に至るまで個々の星を完全に分離して観測することが可能となります。多くの球状星団には、星が線状に並んでいるような連なりが見られることがありますが、M80の星は比較的均一に分布しているように見えます。

特異な性質

M80は単に密集した球状星団であるだけでなく、興味深い特異な性質も持っています。1999年にハッブル宇宙望遠鏡によって行われた詳細な観測の結果、M80には「青色はぐれ星」と呼ばれる種類の星が、通常の球状星団の約2倍も多く存在していることが明らかになりました。青色はぐれ星は、本来ならば進化して赤色巨星などになっているはずの古い星が、何らかの原因で主系列星のように青く輝いているものです。このM80における青色はぐれ星の異常な多さは、星団の中心部で恒星同士が非常に高い頻度で衝突や合体といった相互作用を起こしていることを示唆していると考えられています。

観測史

M80は、フランスの著名な天文学者であるシャルル・メシエによって1781年に発見されました。メシエは発見時の記録に「星を含まない星雲で、中心部が明るく、丸くて小さな彗星の核のようである。星雲状の物質に囲まれている」と記しています。後に、イギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルはこの天体を「M80としてよく知られているが、私が記憶しているもののうちでは、最も密集したもののひとつである」と評しました。また、彼の息子であるジョン・ハーシェルもこの星団を観測し、「球状星団であり、丸く中心が非常に明るく、周囲から急激に光度が増している。星の等級は14等で、みなよく分離して見える」と記録しています。

M80の観測史において特筆すべき出来事として、1860年5月21日に星団の中央部に突然出現した新星があります。この新星はドイツの天文学者アルトゥル・アウヴェルスによって発見され、さそり座T星と名付けられました。一時的に7等級まで明るくなり、星団全体の光度を大きく上回ったため、当時の観測者にとって大きな驚きとなりました。この新星の出現以前にも、1854年には近くにさそり座R星やさそり座S星といった変光星が、フランスの天文学者ジャン・シャコルナクによって発見されています。

このように、M80は発見以来多くの天文学者によって観測され、その見かけの姿や、星団内で発生した特異な現象（新星など）によって、天文学の研究対象として長い歴史を持つ天体と言えます。

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