M92 (天体)

M92（エムきゅうじゅうに）は、メシエカタログに登録された天体の一つで、NGC 6341としても知られています。これは、北天の星座であるヘルクレス座に位置する壮観な球状星団です。

概要

ヘルクレス座には、アマチュア天文家の間で非常によく知られた球状星団M13がありますが、M92もまたそれに匹敵する、明るく密度の高い球状星団として親しまれています。その輝きから、比較的容易に夜空に見つけることができます。

天体の見かけの位置は、地球の自転軸の首振り運動（歳差運動）によってゆっくりと変化します。M92もこの影響を受け、現在の位置から移動し、およそ紀元16000年頃には、北極星のすぐ近く、天の北極からわずか1度以内の位置まで接近すると予測されています。

M92を観測する際に、用いる機材によって見え方は大きく異なります。例えば、双眼鏡でM92を捉えると、まるくぼんやりとした星雲状の光の塊として見え、その中心部が明るく輝いている様子が分かります。

口径8cm程度の小型望遠鏡では、星団を構成する個々の星（微星）を分離して見るのは難しいことが多いです。しかし、口径10cmクラスの望遠鏡を用いて高倍率で観測すると、星団の外側部分や中心部の一部で、微細な星々が見え始めるのを確認できます。

観測史

M92は、1777年にドイツの天文学者ヨハン・ボーデによって初めて発見されました。ボーデは、この天体が「やや丸みを帯びており、青みがかった光に包まれている」と描写しています。

その後、フランスの天文学者シャルル・メシエが1781年に自身の有名なカタログにこの天体を追加しました。メシエはM92を「はっきりとしていて美しく、非常に明るい」と高く評価しています。彼は、1フィート（約30cm）の望遠鏡で容易に見えること、星を含まない星雲状に見えること、中心部が明るく大きな彗星の核に似ていることを記録に残しています。また、大きさや明るさがM13にかなり類似しているとも述べ、見かけの直径を5分角としています。

イギリスの天文学者ジョン・ハーシェルは、M92を正確に「微細な星に分解される球状星団である」と分類しました。また、同国の観測者ウィリアム・ヘンリー・スミスは、M92を「微星が集まった球状星団であり、大きく明るく、中心部が輝いている」と表現しています。彼はさらに、良い気象条件下では、その外形が不規則に見え、端の部分が流れ出しているような印象を受けることがあるとも記しています。

微星分離と見え方

M92の中心部にある星を一つ一つ分離して観測することは、観測機材の性能と当時の気象条件によって大きく左右される、かつては高度な観測能力を示す指標でもありました。イタリアの天文学者パオロ・マラスは、口径10cmの望遠鏡に214倍という高倍率を用いて、中心部の星々を捉えたと報告していますが、一般的にはこのクラスの望遠鏡では中心部は星が集まった「ざらざらとした」質感に見えることが多いです。

口径が20cmクラスの望遠鏡を高倍率で使用すると、個々の星がよりはっきりと分離されて見え始め、星団全体の形がわずかに歪んでいる様子も捉えることができるようになります。しかし、このような微細な構造を詳細に見るためには、大気の揺らぎ（シーイング）が非常に安定している必要があります。有名な天文学者ロス卿でさえ、常にM92全体を個々の星に完全に分解して見ることができたわけではないとされています。

アメリカの観測者ウィリアム・R・ジョーンズは、口径20cmの望遠鏡でM92の全ての星を分離できたと報告しており、その際に星団がやや東側が平らで、南北方向にわずかに引き延ばされた形状をしていると記述しています。

現在では、一般的に口径30cmクラスの望遠鏡を用いることで、M92を構成するほぼ全ての星を個々に分離し、その壮大な姿を詳細に観測することが可能と言われています。

結び

M92は、その高い視認性と、双眼鏡から大口径望遠鏡まで、観測機材によって見せる姿が変化する多様性から、多くの天文愛好家にとって魅力的な観測対象であり続けています。繰り返し観測することで、新たな発見や感動が得られることでしょう。

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