M99 (天体)

M99、あるいはNGC 4254として知られる天体は、春の星座であるかみのけ座に輝く、壮麗な渦巻銀河です。この銀河は、多数の銀河が集まる広大なおとめ座銀河団の構成員であり、興味深いことに、メシエカタログに登録されている天体の中でも際立って大きな後退速度を持っている点が特徴です。

地球から見ると、M99はその面をほぼ真正面に向けている、典型的なフェイスオン銀河の姿をとっています。そのため、その繊細な渦巻き構造を比較的観察しやすい銀河の一つとされています。この渦巻き構造は、19世紀半ばの1846年に、天文学者ウィリアム・パーソンズ（ロス卿）によって初めて詳細に観測され、有名な子持ち銀河M51に続いて史上2番目に渦状構造が確認された銀河として、天文学の歴史にその名を刻んでいます。その外観から、紙風車に例えられることもあります。

望遠鏡を使った観測では、口径によって見え方が大きく異なります。条件が良い場合でも、口径6cm程度の小型望遠鏡では、中心部が丸くぼんやりとした星雲状の光斑として捉えられるに留まることが多いようです。口径10cmクラスになると、中心部の明るい部分や、その周辺に散らばる明るい斑点が見え始めることが報告されていますが、一般的には diffuse（拡散している）な印象でしか見えない場合が多いようです。口径が20cmに達すると、中心部に複数の核がはっきりと分離して見え始めます。さらに大口径の望遠鏡、例えば口径30cmクラスになると、その特徴的な渦巻きの腕が2本確認できるようになり、口径50cmもの大型望遠鏡を使えば、3本の腕が明確に捉えられるとされています。

M99は、これまでに複数の超新星が出現したことでも知られています。1967年のSN 1967Hを皮切りに、1972年にはSN 1972Q、1986年にはSN 1986I、そして比較的近年の2014年にはSN 2014Lと、合計4個の超新星がこの銀河内で発見されています。また、天文学界で初めての暗黒銀河の候補として提唱された高速度水素雲「VIRGOHI21」が、M99の腕の一部ではないかという興味深い説も存在します。

M99の発見は、1781年3月15日にフランスの天文学者ピエール・メシャンによってなされました。メシャンはこの時、同じおとめ座銀河団に属するM98とM100も同時に発見しています。その後、シャルル・メシエは同年4月13日にM99の正確な位置を測定し、自身のカタログの第3版にこれを加えました。メシエは自身の観測ノートに「星のない星雲で、青白く、M98よりやや明るい。7等星と8等星の間にはさまれている」と記録しています。後の天文学者たちもM99に注目し、ジョン・ハーシェルはこれを「極めて目立つ目標」と形容し、明るく丸く、中心が集中しており、3つの渦状部分を持つと記述しました。渦状構造を初めて確認したロス卿は、1848年の観測で「渦状で、明るい星が上にある。星雲の薄い部分がこの星を横切って伸びている。主な枝は下にあり、右方向に旋回する」とその詳細な形状を表現しました。また、ダレストは「大きく明るく、ピカピカと輝く。枝は少し分かれており、端の方で拡散しているのがはっきりする」と、その見た目を記述に残しています。

これらの歴史的な観測記録や、現代の観測・研究を通して、M99はその美しい姿だけでなく、銀河の構造や進化、さらには超新星爆発や未知の天体に関する研究対象としても、天文学者たちの探求心を刺激し続けているのです。

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