MOS 6522

MOS 6522 多用途インタフェースアダプタ (VIA)



MOS 6522 多用途インタフェースアダプタ（VIA）は、1980年代にモステクノロジー社（MOS Technology, Inc.）が開発・製造した汎用性の高い集積回路です。このチップは、モステクノロジーだけでなく、ロックウェル・インターナショナルやSynertekといった企業からも供給されました。主に6502ファミリーのマイクロプロセッサと組み合わせて使用され、システムに多様な入出力機能を提供することを目的として設計されました。従来のパラレルインタフェースアダプタ（PIA）による汎用入出力に加え、シリアル通信や正確なタイミング制御のためのタイマおよびシフトレジスタ機能を一つのチップに統合しており、当時の多くのコンピュータシステムの基幹部品として広く採用されました。特に、コモドール社のVIC-20やC64をはじめとする各種コンピュータで多用されたほか、Apple III、BBC Micro、初期のMacintoshなど、影響力の大きいコンピュータにも搭載され、その多機能性からハードウェア設計者にとって非常に便利な部品でした。

入出力ポート機能



6522 VIAは、合計20本のI/O信号線を有しています。これらは、二つの独立した8ビットの双方向ポート（PAポート、PBポート）として機能する計16本の汎用入出力ピン（PA0からPA7、PB0からPB7）と、四本の制御信号線（CA1, CA2, CB1, CB2）に分類されます。16本の汎用ピンは、データレジスタと方向レジスタの組み合わせにより、各ビットごとに入出力の方向を個別に設定することが可能です。これにより、非常に柔軟なパラレルI/Oを実現しています。四本の制御信号線は多目的に使用できます。対応するI/Oポートからの入力データをラッチするために使用したり、外部デバイスとのハンドシェイク信号（データの送受信タイミングを調整する信号）を自動的に生成したり、あるいは単にハイレベルまたはローレベルの制御信号として出力したりすることができます。また、これらの制御線からの入力は、プログラムによってシステムに対する割り込みを要求することも可能です。

多機能タイマ



本チップは、システムに二つの16ビットプログラマブルタイマ／カウンタを提供します。これらのタイマは、特定の時間間隔で一度だけイベントを発生させる「ワンショットモード」や、一定周期で処理を繰り返す「フリーランモード」など、様々な動作モードに対応しており、精密なタイミング制御を実現します。さらに、外部からのパルス数をカウントする機能も備えており、特にPAポートのビット6（PA6）またはPBポートのビット6（PB6）の状態変化を監視して外部イベントの発生回数を計測することが可能です。各タイマは、カウント値がゼロになった際に割り込み要求信号を生成する機能を持ち、システムの応答性を高めます。また、PAポートのビット7（PA7）またはPBポートのビット7（PB7）からは、タイマによって生成されたプログラム可能な周期を持つ矩形波信号を出力することもでき、外部回路のクロック源や音声生成などに利用されました。

シフトレジスタ機能



6522 VIAには、8ビット幅の双方向シフトレジスタが内蔵されています。この機能は、主にシリアルデータの送受信に用いられ、パラレルデータをシリアルデータに変換して送出したり、シリアルデータを受信してパラレルデータに変換したりすることができます。シフト動作のクロック源としては、内蔵タイマ2の出力、CPUのシステムクロック、あるいは外部からのクロック信号（CB1端子からの入力）を選択することが可能です。シリアルデータの入出力は、CB2端子を通じて行われます。また、CB1端子は、外部デバイスに対してクロック信号を出力するために設定することもできます。なお、初期の6522のシフトレジスタ機能には既知のバグが存在しましたが、CMD社製のG65SC22などの改良版CMOSチップではこの問題が修正されています。

既知のバグについて



シフトレジスタのバグに加え、6522には特定の条件下で内部レジスタの内容が意図せず変化する潜在的な問題が報告されています。これは、「レジスタ化け」とも呼ばれ、特に6502とは異なるバス構造を持つマイクロプロセッサ（例えばモトローラのMC68000など）と接続した場合に発生する可能性がありました。具体的には、チップセレクト信号が非アクティブ（チップが無効化されている状態）であっても、システムクロックの第2フェーズがアクティブな間にアドレス信号が変化すると、本来アクセスされないはずの内部レジスタの内容が誤って書き換わってしまう可能性がありました。この問題も、後に製造されたCMOS版の一部のバージョンで改善されています。

まとめ



MOS 6522 VIAは、当時の8ビットコンピュータシステムにおいて、柔軟かつ強力な入出力機能を提供する画期的なチップでした。その多機能性により、キーボード入力、ディスプレイ出力、外部デバイスとの通信、タイミング制御など、幅広い用途で利用され、1980年代のパーソナルコンピュータの機能拡張と発展に大きく貢献しました。いくつかの既知のバグは存在したものの、その利便性から多くのシステムで採用され、レトロコンピュータの世界でも重要な部品として認識されています。

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