MOVE (聖飢魔IIのアルバム)

聖飢魔II『MOVE』：転換期を告げる、ポップなメタルサウンド

1998年7月23日、ヘヴィメタルバンド聖飢魔IIの11作目となるオリジナルアルバム『MOVE』が、BMGビクターのアリオラジャパンレーベルよりリリースされました。前作『NEWS』から約1年ぶりのリリースで、バンドの転換期を象徴する作品と言えるでしょう。

企画と制作：ヒットを目指した挑戦

『MOVE』は、バンドにとって「ヒット曲を作る」という明確な目標を掲げて制作された初めてのアルバムです。そのため、それまでの聖飢魔IIのセルフプロデュース体制から転換し、ヒットメーカーとして知られるジョー・リノイエと鈴川真樹を外部プロデューサーとして迎え入れました。この外部プロデューサーの起用は、第五大教典『THE OUTER MISSION』以来のことでした。

このアルバム制作の背景には、1996年以降のデーモン小暮閣下の不調、それに伴う聖飢魔II活動の停滞がありました。解散の危機もささやかれる中、メンバーは再起を図り、『NEWS』をリリース。しかし商業的な成功には至りませんでした。しかしながら、この作品はメンバーの結束を再確認させる重要な作品となり、後の活動の礎を築きました。

1997年には、小暮閣下の完全復活を受け、精力的なライブ活動が展開されました。しかし、観客動員数は伸び悩み、バンドは1999年末の解散を決定。残された1998年、聖飢魔IIは最後の挑戦として「大ヒット曲を作る」という目標を掲げ、『MOVE』の制作に着手しました。

レコーディングでは、バンドの臨場感を重視したライブ感のあるサウンドを目指し、ドラム、ベース、ギターを一日で録音するなど、効率的な手法が採られました。しかし、レコーディング過程はメンバーにとって非常にハードなものであり、小暮閣下は特に疲弊感を訴えています。

音楽性：ポップで洗練されたサウンド

『MOVE』の音楽性は、従来の聖飢魔IIのイメージとは大きく異なるポップなサウンドにシフトしています。小暮閣下の独特な世界観を削減し、よりキャッチーで万人受けする楽曲を目指した結果と言えるでしょう。

メンバーの意見も分かれています。エース清水は、制作過程が明確で自身のミュージシャンシップを向上させたと感じていますが、ライデン湯沢は聖飢魔IIらしさが不足していると批判。ルーク篁III世も、プロデューサーの意向とバンドの個性との間にギャップを感じており、バンド本来のハードなサウンドをポップにアレンジするという試みは実現しませんでした。

最終的にシングルカットされた「空の雫」と「MASQUERADE」は、制作当初から聖飢魔IIらしさがないとメンバーは感じていました。しかし、これらの曲はオリコンチャートで一定の成功を収め、アルバム全体にも貢献しました。

リリースとその後

『MOVE』はオリコンアルバムチャートで最高30位を記録。シングルカットされた「MASQUERADE」は、日本テレビ系スポーツニュース『独占!!スポーツ情報』のエンディングテーマとして起用されました。商業的には大きな成功とはなりませんでしたが、バンドの新たな方向性を模索する重要な作品となりました。

その後、解散を控えた聖飢魔IIは、47都道府県ツアーとCM出演を組み合わせた大規模な「ふるさと総・世紀末計画」を実施。この計画では、『MOVE』の楽曲がCMタイアップとして使用されました。この活動は、メディア戦略と地方への浸透を図るという、新しい試みとなりました。

『MOVE』は、ヒットを目指した挑戦、そしてバンドの転換期を象徴する作品です。商業的な成功とは裏腹に、聖飢魔IIの音楽性を多角的に見つめ直す機会となり、後の活動にも影響を与えたと言えるでしょう。また、レコーディングやプロモーション活動の過程でメンバーそれぞれが、多様な意見や感想を抱いていたことも、このアルバムを多層的なものとしています。

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