THE OUTER MISSION

聖飢魔II『THE OUTER MISSION』：宇宙への壮大な挑戦と転換期

1988年12月9日、日本のヘヴィメタルバンド聖飢魔IIは、5作目のオリジナルアルバム『THE OUTER MISSION』を発表した。前作から約1年ぶりとなるこのアルバムは、バンドの転換期を象徴する作品として、多くのファンに語り継がれている。

メディア露出と音楽活動の狭間

『THE OUTER MISSION』制作当時、聖飢魔IIは『夕やけニャンニャン』や『夜のヒットスタジオDELUXE』など、数々のテレビ番組に出演するなど、メディア露出が非常に増加していた。音楽活動とメディア活動の比重がほぼ同等になった時期であり、バンドを取り巻く状況は複雑さを増していた。レコード会社は音楽制作を優先することを望んでいたが、マネージメント側はメディア出演を含む多様な活動を推奨しており、両者の間には大きな溝が生じていた。

この状況を打破すべく、聖飢魔IIは「音楽で評価される作品を作る」という決意を固める。メディア露出に左右されない、高い音楽性を持つ作品で、バンドの評価を確固たるものにすることを目指したのだ。

『STAINLESS NIGHT』と新たな方向性

前作『BIG TIME CHANGES』は、新たな要素を取り入れながらも、未消化な部分が残っていた。しかし、その後発表されたシングル「STAINLESS NIGHT」は大きな転換点となる。この曲はポップでありながらシリアスさも併せ持つ、耽美的な雰囲気を持つ楽曲で、バンドの音楽的可能性を大きく広げるものだった。

「STAINLESS NIGHT」の成功を機に、「壮大なポップなアルバムを作ろう」という構想が固まり、レベッカの土橋安騎夫がプロデューサーとして招聘された。土橋は、聖飢魔IIの音楽に新たな魅力を加える上で大きな役割を果たすことになる。

土橋安騎夫との共同作業とサウンドの進化

土橋の参加は、聖飢魔IIの音楽性を変革する上で大きな影響を与えた。土橋は、楽曲制作の段階から合宿に参加し、メンバーと共に積極的に作品作りに取り組んだ。その過程で、土橋はメンバーの潜在能力を引き出し、従来の聖飢魔IIにはない、明るさとポップさを兼ね備えた楽曲の制作を促した。

土橋との共同作業を通して、メンバーは音楽に対する考え方を大きく変えていく。「WINNER!」「RATSBANE」「THE EARTH IS IN PAIN」といった楽曲は、土橋からの「すべての制約を解除して作曲する」という提案をきっかけに生まれた。これまでマイナー調の楽曲ばかりが制作されていたが、土橋は明るさや暗さ、メジャーやマイナーといった既存の枠にとらわれない自由な発想を促し、結果として多彩な楽曲が誕生した。

アルバム全体では、宇宙や異次元を思わせる、煌びやかなシンセサイザーサウンドが特徴的だ。ハードロックやヘヴィメタルではあまり使用されない要素を積極的に取り入れ、バンドサウンドの幅を広げている。この変化は、当時、様々な音楽を取り入れていた音楽シーンの潮流も反映している。

楽曲の詳細

アルバムには、フジテレビ系クイズ番組『FNS1億2,000万人のクイズ王決定戦！』のエンディングテーマとして使用された「WINNER!」や、ラジオ番組のテーマ曲として使用された「LOVE FLIGHT」「RATSBANE」など、多彩な楽曲が収録されている。「不思議な第3惑星」は、英語詞でありながら、日本語に聞こえる「空耳」が仕掛けられているという遊び心も含まれている。また、「THE OUTER MISSION」にはレベッカのNOKKOがナレーションとして参加している。

メンバーの証言

メンバー自身も、このアルバムを高く評価している。特に、小暮は土橋との共同作業から得た学びを高く評価しており、「勉強になっただけでなく、才能、個性を活かす方法論を収穫した」と述べている。また、湯沢は理想的な環境でレコーディングができたと語っており、アルバムの完成度の高さを強調している。篁は、土橋の存在がなければこのアルバムは完成しなかっただろうと述べている。清水は、シンセサイザーを積極的に使用した理由や、小暮のボーカルに対する評価などを語っている。

商業的成功と信者層の変化

『THE OUTER MISSION』はオリコンアルバムチャートで最高位7位を獲得する商業的成功を収めた。しかし、サウンドの大幅な変化により、従来からのファンの一部が離れていくという現象も発生した。小暮はこれを「信者層の入れ替わり」と表現している。このことは、バンドの音楽性が進化し、新たなリスナーを獲得した一方、従来からのリスナーの一部はついてこられなくなったことを意味している。

評価

音楽情報サイト『CDジャーナル』や『TOWER RECORDS ONLINE』では、『THE OUTER MISSION』は聖飢魔IIの新たな地平を開拓した作品であり、一部の信者からは最高傑作と評されていると評価されている。

まとめ

『THE OUTER MISSION』は、メディア露出と音楽活動のバランス、そして音楽性の進化という、バンドにとって重要な転換期に制作されたアルバムである。土橋安騎夫との出会い、そしてメンバー自身の挑戦と進化によって生まれたこの作品は、聖飢魔IIの歴史において重要な位置を占める、記念碑的な作品と言えるだろう。

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