MZ-2000

MZ-2000/MZ-2200

概要

シャープが1980年代前半に展開した8ビットパーソナルコンピュータ、MZシリーズの一角を占めるモデル群がMZ-2000とMZ-2200です。1982年に登場したMZ-2000は、先行機種であるMZ-80Bの後継として位置づけられ、その基本的な設計思想や構造を引き継ぎつつ、機能強化が図られました。翌1983年に発売されたMZ-2200はMZ-2000のマイナーチェンジモデルであり、特にカラー表示機能の標準化や本体と周辺機器の分離（コンポーネント化）が大きな特徴となっています。本稿では、これら二機種について記述します。

MZ-2000の特色

クリーンコンピュータ設計

MZ-2000は、MZシリーズの伝統である「クリーンコンピュータ」設計を継承しています。これは、本体のROMにはInitial Program Loader（IPL）と呼ばれる最小限の起動プログラムのみを搭載し、OSやBASICインタープリタといったシステムソフトウェアはカセットテープやフロッピーディスクから読み込んでメインRAM上で実行するという思想です。これにより、ユーザーは用途に応じて様々なシステムプログラムを選択し、柔軟に環境を構築することが可能でした。シャープ純正のBASICに加え、多数のサードパーティからも個性的なシステムソフトウェアが提供され、この設計が生かされました。

信頼性の高い内蔵カセットデッキ

本体に内蔵されたデータレコーダは、当時の他社製パソコンに比べ、非常に高い信頼性と操作性を誇りました。電磁メカニズムを採用しており、再生、早送り、巻き戻しといった基本操作に加え、頭出しやデッキオープンといった動作もソフトウェアから制御できます。これにより、カセットテープながらも特定のファイルを自動的に探し出してロードする擬似的なランダムアクセスが可能でした。このカセットデッキの転送速度である2000ボーは、本機の型番の由来ともなっています。ただし、経年劣化によりピンチローラーのゴムが溶けるといった問題も発生しました。

カラー出力への対応

MZシリーズとして初めて、純正環境でカラー表示に対応する可能性を持ったのがMZ-2000です。MZ-80Bのモノクログラフィック機能（320×200ドット、2画面分）を強化し、640×200ドットでモノクロ3画面分またはカラー1画面分の表示能力を備えました。ただし、本体内蔵ディスプレイはモノクログリーンであり、カラー表示を行うにはオプションのグラフィックボードを追加し、さらにカラーディスプレイを接続する必要がありました。このため、MZ-2000単体でのカラー対応ソフトウェアは限られていました。

ハードウェア

CPUにはシャープ製のZ80A互換であるLH0080A（4MHz）を搭載。メインRAMは標準で64KBでした。表示能力は、テキストモードで40桁×25行または80桁×25行をソフトウェアで切り替え可能。グラフィック機能はオプションボードの追加により実現しました。拡張I/Oポートは6スロットから4スロットに減少しましたが、実質的に自由に使えるのは2スロットでした。本体はディスプレイとカセットデッキを内蔵した一体型デザインで、約13kgの重量がありました。

MZ-2200の進化

MZ-2200は、MZ-2000の基本設計を維持しつつ、いくつかの重要な改良が加えられたモデルです。最大の変更点は、一体型だった本体からディスプレイとデータレコーダを分離し、コンポーネントタイプになったことです。これにより、ユーザーは好みのディスプレイを接続できるようになり、筐体のフットプリント（設置面積）もMZ-2000より小さくなりました（ただし、分離設計の機種と比較すると依然として大きい側面もありました）。

機能面では、MZ-2000ではオプションであったグラフィックスメモリが標準で内蔵され、カラーグラフィックス表示が容易になりました。CRT（ディスプレイ）を追加するだけで、640×200ドット、8色によるドット単位でのカラー表示が可能となり、MZ-2000時代のカラー対応ソフトウェア不足を解消する助けとなりました。

MZ-2200はMZ-2000との高いソフトウェア互換性を保っており、MZ-2200専用とされたソフトウェアも、カラー表示関連のオプションを用意すればMZ-2000で動作させることができました。これは両機種のハードウェア構造に多くの共通点があったためです。

ハードウェアとしては、カラー表示やメモリ制御を効率化するためのカスタムチップ（LZ90D01, LZ90D02, LZ90D03）が搭載されました。標準価格はMZ-2000の218,000円から128,000円へと大幅に引き下げられ、普及促進が図られました。

ソフトウェア環境

クリーンコンピュータ設計により、純正以外にも多様なシステムやアプリケーションが利用可能でした。シャープ純正では、標準BASICに加え、カラーグラフィック命令を強化したカラーBASIC（MZ-2200では標準添付）、倍精度演算対応BASIC、Pascal、CP/M|CP_M互換のF-DOSなどが提供されました。サードパーティ製では、整数型/小数型対応のBASICコンパイラ/インタープリタ（dB-SOFT）、Microsoft BASIC系文法を持つHu-BASIC（ハドソン）、高速な36色描画や音声合成を実現したSuper Color BASIC（スガヤ無線）など、意欲的な製品が多数登場しました。ゲームソフトも多数移植・開発され、『ドアドア』、『ハイドライド』、『パックマン』などが人気を博しました。

周辺機器

シャープ純正で、グリーン/カラーディスプレイ、信頼性の高いデータレコーダ（MZ-1T02）、ミニフロッピーディスクドライブ（MZ-1F07など）、プリンタ、拡張I/Oユニット、グラフィックスメモリ、漢字ROMボード、さらには本体を16ビット化するMZ-1M01（8088+128KBメモリ搭載）といった多岐にわたる周辺機器が用意されました。サードパーティからもFDDなどが供給されています。

現代における利用

発売から数十年を経た現在でも、MZ-2000/2200はエミュレータによってその動作が再現されています。Linux上で動作するemz2000や、Windows向けのEMUZ-2000、これらを統合・改良したemz2000/EmuZ-2000 TF-EDITION、さらにCommon Source Code Projectに含まれるEmuZ-2200などがあり、当時のソフトウェア資産を楽しむことが可能です。

MZ-2000/2200は、クリーンコンピュータというユニークな設計思想、信頼性の高いカセットデッキ、そしてカラー対応への過渡期を象徴するモデルとして、日本の8ビットパソコン史において重要な位置を占めています。

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