Max (ソフトウェア)

Maxとは

Maxは、サンフランシスコのソフトウェア企業Cycling '74が開発・保守している、音楽とマルチメディア向けのグラフィカルな統合開発環境（ビジュアルプログラミング言語）です。作曲家やメディアアーティストを中心に、20年以上にわたり利用され続けています。

Max/MSP

初期のバージョンでは、DSP機能を追加したMax/MSPという名称で販売され、映像を扱うJitterは別売りでした。しかしバージョン5以降は、JitterがMaxに統合され、Max、MSP、Jitterが一体のパッケージとして提供されるようになりました。これにより、名称も再びMaxとなりました。

モジュール性

Maxは非常にモジュール性が高く、多くの機能が共有ライブラリとして提供されています。APIを通じて、サードパーティーが「external objects」と呼ばれる独自の機能拡張を開発することも可能です。この高い拡張性とグラフィカルなユーザーインターフェースにより、Maxはインタラクティブな音楽パフォーマンスソフトウェア開発における共通言語とも言える存在となっています。

歴史

Maxのオリジナル作成者はミラー・パケット (Miller S. Puckette) です。1988年にIRCAMで、作曲家がインタラクティブなデスクトップミュージック制作システムにアクセスできるように、ピアノとコンピュータを組み合わせたSogitec 4XというシステムのためのエディタPatcherとして開発されました。

1989年、IRCAMはMaxの並列処理版を開発し、NeXTにIRCAM Signal Processing Workstationを接続した環境で動作するように移植しました。これは後にSGIやLinuxにも移植され、Max/FTS (Faster Than Sound) と呼ばれました。

同年、MaxはOpcode Systemsにライセンス供与され、1990年にMax/Opcodeという商用版が販売されましたが、売れ行きは伸びず、数年後に他社に売却されました。現在のMaxは、1999年から、Max/Opcodeでの拡張を行ったDavid Zicarelliが1997年に設立したCycling '74によって販売されています。

Maxにはいくつかの拡張機能が存在します。特に、1997年にPure Dataから移植された音響拡張セットMSP (Max Signal ProcessingまたはMiller S. Pucketteの略) が有名です。MSPをMaxに追加することで、デジタル音声信号をリアルタイムで操作できるようになり、ユーザーは独自のシンセサイザーやエフェクトプロセッサを作成できます。それ以前のMaxは、ハードウェアシンセサイザーやサンプラーへのインターフェースとして設計されており、MIDIなどのプロトコルを制御する言語でした。現在は、すべてのMaxにMSP機能がバンドルされています。

1998年には、Max/FTSの後継として、Javaを使って開発されたjMaxがオープンソースとしてリリースされました。

1999年には、Maxでビデオのリアルタイム制御を可能にする拡張機能、nato.0+55がリリースされました。これは謎の多いネット上の存在であるNetochka Nezvanovaが開発して配布したものですが、マルチメディアアーティストの間で人気を博しました。同時期に、Cycling '74も公式なビデオ制御機能を開発し、2003年にJitterとしてリリースされました。Jitterは、リアルタイムのビデオ、3次元、行列処理機能を提供し、バージョン5以降、すべてのMaxにバンドルされています。

競合ソフトウェア

Maxにはいくつかの競合ソフトウェアが存在します。

Native Instruments Reaktor: シンセサイザーの構築に特化しており、その目的であればMaxよりも理解しやすいものの、拡張性ではMaxに劣ります。
Apple Quartz Composer: パッチ型のプログラミングという点でMaxと共通しています。
Pure Data: Maxの開発者であるミラー・パケット氏が開発したフリーソフトウェアで、Maxに似た機能を提供しますが、DSPによる信号処理のサポートがないなど、基本的な点でMaxと異なる部分もあります。
OpenMusic: IRCAMで開発されたオブジェクト指向プログラミング音楽用言語で、Maxが主にリアルタイム処理に適しているのに対し、OpenMusicは楽譜やサウンドファイルの出力に適しています。SDIFフォーマットに対応しており、Maxとのデータ連携も可能です。
Ableton Live: ライブパフォーマンスやタイムラインベースの制作に強みがあります。Cycling '74とAbletonの共同開発により、2009年にはMAX for Liveがリリースされました。

その他

Maxの名称は、世界初の音楽プログラミング言語MUSICを開発したマックス・マシューズに由来します。Maxで開発したプログラムは、実行環境とともにスタンドアロンのアプリケーションとして配布でき、商用利用も可能です。また、Maxは他のシステムでVSTなどのプラグインとして使用することもできます。

近年、ライブパフォーマンスでノートパソコンが使われる機会が増えており、Maxが開発環境として利用されることも多くなっています。

Maxを利用する主なアーティスト

Maxは、多くのアーティストに利用されています。以下にその一部を紹介します。

秋田昌美
リチャード・D・ジェームス
オウテカ
高橋悠治
坂本龍一
佐近田展康
ジョニー・グリーンウッド（レディオヘッド）
竹村延和
ポーリン・オリヴェロス
青木孝允
ヤン富田

IRCAMに関連する作曲家は、アシスタントのサポートを受けながら、Maxを活用して電子音響作品を制作することが多くあります。ピエール・ブーレーズは初期のMaxを利用して代表作「レポン」を制作しました。また、カイヤ・サーリアホ、ジョナサン・ハーヴェイなどの作曲家もMaxを利用して電子音響作品を制作しています。IRCAMでは若手作曲家を対象とした研究員制度も設けており、Maxをはじめとするソフトウェアを学び、自作の演奏会に利用しています。

関連項目

Pure Data
Jeskola Buzz
Ableton Live

外部リンク

What is Max? 公式ウェブサイト
RTC-lib Max/MSP/Jitter でのアルゴリズム的合成のためのソフトウェアライブラリ
Pd Home Page
jMax project page on SourceForge.net
AE Max/MSP patches and Powmod patch library
Max Objects Database
Studiotoolz!
日本輸入代理店エムアイセブンジャパン｜Cycling '74日本語ポータルサイト
David Zicarelli｜Max開発者インタビュー

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