NARグランプリアラブ最優秀馬

「NARグランプリアラブ最優秀馬」は、地方競馬全国協会（NAR）が主催する年間表彰制度「NARグランプリ」において、過去に設けられていた競走馬部門の一つです。この賞は、その年に最も顕著な活躍を見せたアングロアラブ系の競走馬を顕彰することを目的としていました。本項目では、この「NARグランプリアラブ最優秀馬」だけでなく、その前身にあたる「アラブ年度代表馬」、そして1994年から2001年まで細分化されて設けられていた「アラブ系2歳最優秀馬」「アラブ系3歳最優秀馬」「アラブ系4歳以上最優秀馬」といった、関連する賞についても一連の流れとして解説します。

NARグランプリは、地方競馬で活躍した競走馬や関係者を表彰するために設立されました。当初から、サラブレッド、ばんえいといったカテゴリーと並んで、アングロアラブ系の競走馬を対象とした表彰部門が設けられており、「アラブ年度代表馬」として年間最優秀馬が選ばれていました。設立初期の選考は比較的シンプルで、その年の獲得賞金が最も多いアングロアラブ馬が自動的に表彰されるという形式が取られていました。

時代が進み、1994年からは選考方法が大きく変更されました。単なる賞金順ではなく、競馬記者や学識経験者などの有識者から構成される選定委員会が、該当年に活躍したアングロアラブ系競走馬の中から討議を経て最優秀馬を選出する形式へと移行したのです。この選考方法の変更と同時に、表彰部門も馬齢別に細分化され、「アラブ系2歳最優秀馬」「アラブ系3歳最優秀馬」「アラブ系4歳以上最優秀馬」の3部門が新設されました。この時期には、地方競馬のアラブ系競走がまだ全国的に盛んに行われており、各カテゴリーで優れた成績を残した馬たちが選ばれました。特筆すべきは、この細分化時代に、トチノミネフジやケイエスヨシゼンといった名馬が、サラブレッド部門の受賞馬を凌ぐ評価を得て、NARグランプリ全体の「年度代表馬」にも同時に選出されたという快挙を成し遂げたことです。これは、当時の地方競馬においてアングロアラブ系のトップホースが、サラブレッドのトップホースと肩を並べる存在であったことを物語っています。

しかしながら、2000年代に入る頃から、アングロアラブ系競馬を取り巻く環境は大きく変化し、厳しい状況に置かれるようになります。中央競馬におけるアラブ系競走の全廃に加え、南関東公営競馬をはじめとする主要な地方競馬場でもアラブ系競走が次々と廃止されていきました。これにより、アングロアラブ系の競走馬の生産頭数や、実際にレースに出走できる在厩馬の数が激減しました。さらに追い打ちをかけたのが、かつては全国のアラブ系強豪馬が集結し、レベルを測る重要な機会であった全日本アラブ争覇、楠賞全日本アラブ優駿、東北アラブチャンピオンといった交流競走の相次ぐ廃止でした。これらの交流競走の消滅は、異なる地区の馬同士が戦う機会を奪い、全国レベルで真に優れた活躍馬を公平かつ妥当に比較・選出することを極めて困難にしました。

こうした状況を受けて、NARグランプリのアラブ系競走馬表彰部門も見直しを迫られます。全国規模での選出が難しくなったことを反映し、2002年をもって「アラブ系2歳最優秀馬」「アラブ系3歳最優秀馬」「アラブ系4歳以上最優秀馬」の3部門は統合され、再び「アラブ最優秀馬」として一本化されました。

しかし、この統合された「アラブ最優秀馬」の賞も長くは続きませんでした。アラブ系競走そのものの規模が縮小し続ける中で、賞を授与するにふさわしい、全国的に傑出した活躍を見せる競走馬が出現しなくなったのです。2006年にキジョージャンボが受賞したのを最後に、その後は該当馬なしという状況が続きました。この状態を受け、NARグランプリにおける「アラブ最優秀馬」の賞は、2009年をもって廃止されることとなりました。

NARグランプリアラブ最優秀馬およびその前身の賞は、地方競馬におけるアングロアラブ系競走馬の栄枯盛衰を映し出す歴史的な賞でした。これらの賞の存在と廃止の経緯は、かつて多くのファンを魅了したアングロアラブ系競馬が辿った道のりを静かに物語っています。歴代受賞馬たちの功績は、今も地方競馬の記録の中に残されています。

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