NEO FASCIO

氷室京介『NEO FASCIO』：音楽による社会への問いかけ

1989年、氷室京介がリリースした2ndアルバム『NEO FASCIO』は、単なる音楽作品を超え、社会への深い問いかけを投げかけた意欲作です。前作から約1年、氷室は本作で音楽家として新たな境地を開拓しました。

ファシズムをテーマにしたコンセプトアルバム

アルバム全体を貫くテーマは「ファシズム」。アドルフ・ヒトラーの演説を音楽表現に取り入れ、ファシズムの危険性を音楽で表現するという、非常に挑戦的な試みです。このテーマは、泉谷しげるが作詞した前作の収録曲「独りファシズム」がきっかけとなり、構想されました。

氷室は、ナチスの行為を否定しつつも、ヒトラーの演説における演出に感銘を受け、その拡散作用を自身の音楽やコンサートで表現することを模索します。この背景には、ミック・ジャガーやデヴィッド・ボウイがヒトラーをロックスターと評したことや、六四天安門事件、チャウシェスク政権の崩壊など、社会情勢への問題意識がありました。

制作の舞台裏

本作の制作は、氷室が「音楽家として何をすべきか」を自問自答する中で始まりました。彼は、限りなくゼロに近いところから自分一人で音楽を組み立てていくことを模索し、デモテープの段階から緻密に音を作り上げていきました。

制作には、プロデューサーに佐久間正英、作詞に松井五郎、ビジュアル面担当に森谷統という、少数精鋭のスタッフが参加。佐久間はBOØWY時代のアルバムも手掛けた人物であり、氷室とは旧知の仲でした。レコーディングは、氷室、佐久間、ドラムスのそうる透の3名のみで行われ、アレンジは氷室が制作したデモテープを基に進められました。

楽曲について

アルバムは、インストゥルメンタルの「OVERTURE」で幕を開け、タイトル曲「NEO FASCIO」へと続きます。金属的で硬質な近未来のイメージを表現したこの曲は、氷室が愛好するギタリスト、スティーヴ・スティーヴンスをイメージして制作されました。

先行シングルとなった「SUMMER GAME」や、カネボウのCMソングとして使用された「MISTY」も収録されていますが、アルバム全体のテーマとの関連性を考慮し、曲順やアレンジが調整されています。

その他、「ESCAPE」、「CHARISMA」、「COOL」など、多様な楽曲が収録されており、それぞれの楽曲がアルバム全体のテーマを補完し、深みを加えています。

リリースと評価

『NEO FASCIO』は、1989年9月27日にリリースされ、オリコンアルバムチャートで1位を獲得。40万枚を超えるセールスを記録し、日本レコード協会からプラチナ認定を受けました。

難解なテーマにも関わらず、セールス的にも成功を収めた本作は、氷室京介の音楽性を深化させた作品として、高く評価されています。音楽情報サイト『CDジャーナル』は、本作を「その後の社会情勢を予見したかのようなコンセプト・アルバム」と評しています。

ツアーとその後

本作を受けて、全国ツアー「NEO FASCIO TOUR」が開催され、追加公演として東京ドーム公演も行われました。この東京ドーム公演の模様は、ライブ・ビデオ『NEO FASCIO TURNING POINT』に収録され、こちらも大ヒットを記録しました。

『NEO FASCIO』は、氷室京介のキャリアにおいて、重要なターニングポイントとなった作品であり、彼の音楽性を語る上で欠かすことのできない一枚です。社会への問題提起と内面的な葛藤を音楽で表現した本作は、時代を超えて聴き継がれるべき作品と言えるでしょう。

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