NHK (地上デジタル音声放送)

NHK（エヌエイチケイ）は、地上デジタル音声放送の実用化試験局において、日本放送協会が運営していたチャンネルの名称です。愛称としてはNHKデジタルラジオ、またはNHK-dRとも呼ばれていました。

概要

このチャンネルは、デジタルラジオ推進協会が免許人および運営を担い、NHKがその構成社の一つとして参加する形で実施された実用化試験放送の一環として存在しました。2009年6月当時、この放送形態はまだ大都市圏での試験段階に留まっていました。放送時間は通常11:00から21:00まででしたが、番組編成は独自制作のものが大半を占めつつも、ラジオ第1、ラジオ第2、FM放送、そしてワンセグ2といった既存の放送サービスと共通の番組も含まれていました。

実用化試験放送は、2011年3月31日をもって全面的に終了し、このチャンネルも閉局しました。しかし、放送期間中に制作された独自番組の一部は、現在でもラジオ第1やFM放送で再放送としてオンエアされることがあります。また、国際放送であるNHKワールド・ラジオ日本では、大部分の時間帯でラジオ第1の番組が同時放送されていますが、国会中継（一部を除く）やスポーツ中継（放送権などの都合で配信できないもの）のためにラジオ第1の放送が休止となる場合、過去のデジタルラジオ独自番組やFM放送の番組が代替として同時または時間差で放送される機会がありました（音声はモノラル）。2011年の東日本大震災発生時の特別編成においては、関連ニュースを優先する中で選抜高校野球中継をそのまま放送したケースがありましたが、東京都知事選挙の政見放送実施時は、デジタルラジオの番組が差し替え放送に用いられたこともあります。

沿革

実用化試験放送は、2003年 10月10日に開始されました。当初は道路交通情報通信システムセンター（VICS）と連携し、東京および大阪地区で91チャンネルおよび9101チャンネルにて「NHK・VICS」という名称で放送が始まりました。2004年10月には、新潟県中越地震発生に伴い、サブチャンネルを活用して地震情報（ラジオ第1同時放送）や安否情報（FM放送同時放送）を提供しました。同年11月には、同じくサブチャンネルで防災特別番組を放送しています。2007年 4月2日、VICSがこの事業から撤退したことに伴い、チャンネル名が「NHK」に改称されました。2008年 7月14日からは、簡易動画放送も開始されています。試験放送の終了は段階的に行われ、まず2010年 6月30日に大阪地区での放送が終了し、閉局しました。そして2011年3月31日に東京地区での放送も終了し、チャンネルはその役割を終えました。

聴取方法

このデジタル音声放送を聴取するには、地上デジタル音声放送に対応した専用の受信機が必要でした。また、地上デジタル音声放送の受信機能が搭載されたワンセグチューナーや一部の携帯電話でも聴くことが可能でした。利用可能なチャンネルは、東京地区（東京実用化試験局）では9101チャンネル、大阪地区（大阪実用化試験局）では9102チャンネルでした。

番組内容

NHKデジタルラジオでは、多様な番組が放送されていました。主な独自制作番組としては、大阪の話題を扱うワイド番組『大阪発デジタルバザール』、亀渕昭信氏がパーソナリティを務めた洋楽中心の音楽番組『亀渕昭信のいくつになってもロケンロール!』、歌舞伎役者をゲストに迎える『カフェKABUKI』、若い女性向けの『女子力アップのオトメ・ラボ!』、千住真理子氏によるクラシック音楽番組『Tea For Classic～クラシックでお茶を～』などがありました。また、教育テレビで放送されていたアニメーション『おでんくん』の音声はそのままで映像を静止画にしたバージョンや、特定の楽曲に焦点を当てオリジナルとカバーを紹介する『エターナルサウンズ』、特定の年のヒット曲を紹介する『サウンドパサージュ』といった音楽系番組も制作されていました。

さらに、多言語放送も実施されており、メインチャンネルでは日本語、サブチャンネル1で英語、サブチャンネル2で中国語、サブチャンネル3で韓国語という形で、『多言語天気予報』や『多言語むかしばなし』などが放送されました。

既存番組のサイマル放送や再放送も多数含まれていました。例えば、『NHKニュース』や『NHKきょうのニュース』はラジオ第1のサイマル放送でしたが、バンクーバーオリンピック期間中の正午のニュースなど、一部例外もありました。サブチャンネル1では、高齢者でも聴き取りやすいように話速度変換技術を用いた『ゆっくりラジオ』が放送されました。ワンセグ2の『ケータイドラマ劇場』と共通の『デジタルドラマ劇場』や、ラジオ第2の英語講座の時差放送・週末再放送も行われました。また、BS 2の番組『毎日モーツァルト』も再放送されていました。

データ放送サービスも提供されており、ニュースや天気予報はワンセグと同様の内容で提供されていました（かつては「見えるニュース」と呼ばれました）。ショートアニメーション『デジタルひとこまMANGA』も視聴できましたが、試験放送開始当初はVICSの道路交通情報が配信されていました。

背景と意義

NHKは、1996年から2007年にかけてFM放送で文字多重放送を実施し、VICSのサービスにも利用していましたが、この文字多重放送は結局3大都市圏以外にエリアが拡大しないまま終了しました。しかし、デジタル音声放送で提供されたコンテンツや技術には、このFM文字多重放送から引き継がれた要素が少なくありませんでした。全国に向けて均一な放送サービスを提供する義務を負うNHKにとって、サービス展開にはある程度の効率性が求められるという事情があり、それが特定の地域に限定される試験放送のあり方にも影響したと言えます。

デジタル音声放送自体が2009年6月時点でも大都市圏での実用化試験段階に留まっていた背景には、参加する各放送事業者が将来的な事業化において収益を確保できるかという見通しを立てにくい状況があったとされています。特に、テレビジョン放送の完全デジタル化が完了するまでは、デジタル音声放送に必要な周波数を十分に確保できないという技術的・政策的な制約も存在しました。

NHKのデジタル音声放送チャンネルは、限られた期間での実用化試験という役割を終え、閉局に至りましたが、その経験はNHKにおけるデジタル放送技術やコンテンツ開発において一定の意義を持ったと言えるでしょう。

NHK (地上デジタル音声放送)