NR-1 (原子力深海潜航艇)

NR-1: アメリカ海軍の原子力深海探査艇

NR-1は、アメリカ海軍が運用した深海探査艇であり、その開発は1960年代初頭にさかのぼります。もともとこの艦のコンセプトは、ハイマン・G・リッコーヴァー提督によって提唱され、1965年4月18日にリンドン・ジョンソン大統領によって正式に発表されました。目的は原子力を用いた調査および海洋工学研究のための深海潜航艇の開発です。

当初、1966年に発生したパロマレス米軍機墜落事故では行方不明の核爆弾を探すために小型の調査艇「アルビン」と「アルミノート」が使用されましたが、その能力には限界がありました。この経験から、より能力の高い深海探査艇の必要性が強調され、NR-1の開発は加速されました。しかし、原子力推進の深海探査艇は技術的に未踏の領域であり、開発には多くの困難が伴い、コストも高騰していきました。

最終的に、NR-1は1969年1月25日に進水し、開発にかかった総費用は約1億ドルに達しました。この金額には船殻、海洋学的装置、原子炉のコストが含まれています。

設計の特徴

NR-1の設計においては、耐圧殻には高張力鋼のHY-80が使用されており、設計された潜航深度は1,000メートルです。特に、耐圧殻の精度には非常に高い要求があり、特別な圧延機が必要とされました。また、NR-1の独特な特徴の一つは、船底に装備された海底走行用の車輪です。これは、米海軍の潜水艦として初めての試みであり、マッケレルという艦によって試験されました。車輪走行時の最大速度は0.5ノットと制限されていました。

動力源としては、ゼネラル・エレクトリック社が開発した小型の加圧水型原子炉が搭載されており、出力は約97キロワットです。この原子炉は、一般の原子力艦艇よりもはるかに小型であり、わずか1人の操作員によって制御が可能でした。

操縦に関しては、NR-1は従来の潜水艦とは異なり、艦首と艦尾にX型に配置されたスラスターが搭載されているほか、主推進器は2軸推進になっています。艦制御ステーションには、二つの操縦席があり、一体型コンソールには艦の監視や制御情報が表示されます。操縦方法はジョイスティック式であり、ユーザーインターフェースの先駆的な設計がなされています。これにより、艦の操作は精密かつ直感的に行えるように工夫されていました。

艦歴と任務

1970年から1980年代にかけて、NR-1は様々な任務を遂行しました。最初の任務はアゾレス固定音響レンジ（AFAR）の敷設であり、その後は海中音響機材の敷設や保守点検、またソビエト連邦による同種機材の調査が行われました。多くの任務は機密指定されていましたが、1976年には事故で海没したF-14艦上戦闘機とフェニックス空対空ミサイルの回収任務が公に報告されました。

また、1986年にはチャレンジャー号爆発事故の残骸回収に参加し、事故原因を探るための重要な部分を回収しました。さらに、海洋学的調査においても活躍し、特にブルース・C・ヘーゼン博士が度々乗艦して研究を行いました。残念ながら1977年には、ヘーゼン博士が艦内で心臓発作を起こして亡くなるという悲しい出来事も発生しました。

NR-1はそのユニークな設計と多様な任務により、深海探査の分野における先駆者としての地位を確立し、アメリカ海軍の歴史に名を刻みました。

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