P6M (航空機)

マーチン P6M シーマスター：幻の多用途ジェット飛行艇

マーチン P6M シーマスターは、1950年代にアメリカ海軍が開発したジェットエンジン搭載の大型飛行艇です。核攻撃能力を持つ多用途機として期待されましたが、短期間で計画が中止され、実戦には投入されませんでした。本記事では、P6M シーマスターの開発経緯、技術的特徴、そして計画中止に至った背景について詳しく解説します。

開発の背景

第二次世界大戦後、アメリカ海軍は、大型の核爆弾を輸送できる航空戦力を模索していました。当時、大型空母の建造計画が中止されたこともあり、水上から離着陸できる飛行艇が、新たな核兵器運搬手段として注目されました。

水上機は、陸上機に比べて離陸重量の制限が緩やかで、大型化に適しているという利点がありました。そこで海軍は、ターボジェットエンジンを搭載し、核爆弾を搭載可能な多目的飛行艇の開発を航空機メーカーに要求しました。

開発経緯

1952年、アメリカ海軍は各航空機メーカーに大型飛行艇の開発要求を提示しました。航続距離2,400km、13.6tの爆弾搭載量、最大速度1,100km/hという高い性能目標が掲げられ、核攻撃、機雷敷設、偵察など多岐にわたる任務に対応できることが求められました。

この要求に対し、コンベア社とマーチン社が応じ、マーチン社の「モデル275」案が採用され、XP6M-1として開発がスタートしました。

試作機XP6M-1は1955年に完成し、初飛行に成功しました。しかし、初期の試験飛行でアフターバーナー使用時の振動が問題となり、エンジンの排気口を外側に向ける改修が行われました。その後、試験中に2機の試作機が墜落するという事故が発生しました。

増加試作機YP6M-1を用いた飛行試験は1958年から開始され、武装を含めた各種試験が行われました。試験結果は良好でしたが、YP6M-1は重量過多で飛行性能に問題があり、ポーポイズ現象（イルカが泳ぐように機体が上下に揺れる現象）を起こしやすいという課題が残りました。

量産型P6M-2は1959年に完成しました。エンジンが換装され、キャノピーが改善されました。空中給油能力も付与されました。しかし、P6M-2も高速飛行中に振動を起こしやすいという問題を抱えており、操縦には高度な技術が求められました。また、翼端フロートが水没しやすいという問題もありました。

計画中止

P6M シーマスターは、技術的な課題に加え、時代背景の変化も計画中止の要因となりました。A-3などの大型艦上攻撃機やSLBM（潜水艦発射弾道ミサイル）の実用化が進み、核攻撃手段の多様化が進んだことで、大型飛行艇の必要性が薄れていったのです。

1959年8月、P6M シーマスターの開発計画は中止されました。P6M-2は24機が発注されていましたが、量産機の生産は3機で打ち切られ、実戦投入されることなく全機が廃棄されました。開発費用は約4億ドルに達しました。

機体構造

P6M シーマスターは、細身の艇体と高翼配置の主翼を持つ独特な形状をしていました。主翼には40度の後退角が付けられ、翼端が燃料タンク兼フロートとして機能しました。尾翼はT字尾翼となっていました。

エンジンは主翼付け根上部に4基搭載され、海水の吸い込みを防ぐ工夫が凝らされていました。胴体下面には水密式の爆弾倉があり、核爆弾や機雷、偵察機材を搭載できました。

各型

XP6M-1：試作機
YP6M-1：増加試作機
P6M-2：量産型

スペック

全長：40.84m
全幅：31.37m
全高：9.88m
自重：41.4t
エンジン：プラット・アンド・ホイットニーJ75P-2ターボジェットエンジン（推力77.8kN）4基
乗員：4名
最大速度：1,010 km/h
航続距離：3,200 km
武装：爆弾等最大14t、20mm機銃2門

まとめ

マーチン P6M シーマスターは、革新的な技術を投入した大型ジェット飛行艇でしたが、技術的な課題と時代背景の変化により、短命に終わりました。しかし、そのユニークな設計思想は、航空史に名を残すものとして評価されています。

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