PDP-1

PDP-1 (Programmed Data Processor-1) の詳細

PDP-1は、デジタル・イクイップメント・コーポレーション（DEC）が開発した、PDPシリーズの最初のミニコンピュータです。1959年に開発が開始され、1960年に出荷されました。このコンピュータは、MITやBBN（Bolt, Beranek and Newman）といった場所でハッカー文化を育む上で重要な役割を果たしました。特に、世界初の不特定多数向けコンピュータゲームである「スペースウォー!」が動作したことで広く知られています。

基本的な仕様

PDP-1は18[[ビット]]のワード長を持ち、標準で4Kワード（約9KB相当、1バイトを6ビットとして計算）の主記憶装置を搭載していました。最大で64Kワード（約144KB）まで拡張可能です。磁気コアメモリのサイクルタイムは5マイクロ秒で、これは現代のクロック速度に換算すると約200kHzに相当します。算術演算の多くは10マイクロ秒かかり、1秒間に10万回の処理が可能でした。符号付き数値は1の補数で表現されました。

ハードウェア構成

PDP-1の主要部分は、DECの1000シリーズ・システムビルディングブロック（回路モジュール製品）で構成されています。これらのモジュールには、マイクロアロイ形またはマイクロアロイ拡散形トランジスタが使用され、スイッチング速度は5MHzでした。これらのモジュールは、複数の19インチラックに収められ、さらにそれらを大きなフレーム（メインフレーム）にまとめる形でパッケージングされていました。フレームの一端には、テーブルほどの高さの六角形の制御パネルがあり、スイッチとランプが配置されていました。制御パネルの上には、標準入出力装置である紙テープリーダ/ライタが設置されていました。

歴史と影響

PDP-1の設計は、MITリンカーン研究所で開発されたTX-0を基にしています。最初の顧客は、コンサートホールの音響設計を多く手掛けていたBBNで、1960年11月に納入され、翌年の4月に正式に検収されました。MITのPDP-1は、1962年にDECから寄贈されたもので、リンカーン研究所から貸与されていたTX-0の隣の部屋に設置されました。

MITでは、PDP-1はTX-0の人気を凌駕し、ハッカー文化の形成とコンピュータ分野における様々な「世界初」の開発を促しました。最も有名なのは「スペースウォー!」ですが、他にも世界初のテキストエディタ、ワードプロセッサ、対話型デバッガ、コンピュータチェスプログラム、初期のコンピュータ音楽などが生み出されました。

PDP-1の基本構成の価格は12万ドルで、BBNに続き、ローレンス・リバモア国立研究所やカナダ原子力公社（AECL）にも導入されました。最終的に、1969年までに53台のPDP-1が販売され、1970年頃まで使用されました。現在でもいくつかの個体が現存しています。

周辺機器

PDP-1の記憶媒体としては、穿孔紙テープが使用されました。パンチカードと異なり、紙テープは編集が難しかったため、テキスト編集プログラムであるExpensive TypewriterやTECOが開発されました。プリンタはIBMの電気タイプライター機構を使用しており、ビジネスレター品質の印刷が可能でした。これが世界初のワードプロセッサと言えるTJ-2の発想につながりました。

コンソールタイプライターは、Soroban Engineering社の製品で、IBMのモデルBタイプライターを改造したものでした。キー入力の検知スイッチとタイプバー駆動用のソレノイドが追加され、大文字と小文字の区別はタイプバスケット全体の上下動で実現していました。赤と黒の二色のインクリボンが装備されており、プログラムによって印字色を切り替えることができました。Sorobanの機構は信頼性に乏しく、大文字/小文字の切り替え時に故障しやすかったとされています。

オフラインプリンタは、Friden Flexowriter社製で、PDP-1で使用されていたF10-DEC文字コードを扱えるよう特別に開発されました。これもIBMの電気タイプライター機構をベースにしていましたが、Flexowriterは信頼性が高く、無人での長時間印刷が可能でした。Flexowriterには電気機械式の紙テープパンチと読み取り装置が付属しており、タイプライターと同時に使用できました。印字速度は1秒間に約10文字でした。

後年、一部のPDP-1システムにはDECtape装置が追加され、データやプログラムのバックアップが容易になり、初期のタイムシェアリングが可能になりました。初期のハードディスクドライブは高価で信頼性が低かったため、主にスワッピングの高速化に使用されました。

グラフィックス・ディスプレイ

Type 30 Precision CRTディスプレイは、1024x1024のアドレス指定可能な位置を持ち、毎秒2万点を描画できました。画面は毎秒複数回リフレッシュされ、描画領域は9.25インチ四方でした。オプションでライトペン、文字ジェネレータ、直線・曲線描画ハードウェアがありました。

コンピュータ音楽

MITのハッカーたちは、PDP-1を四和音の音楽演奏に使用しました。これには、プロセッサが直接制御する4つのフリップフロップ（RCフィルタでフィルタリング）という特殊なハードウェアが必要でした。ソフトウェアには、ピーター・サムソンのHarmony Compilerが使用され、バロック音楽に適した洗練されたプログラムでした。バッハのフーガやモーツァルトのアイネ・クライネ・ナハトムジークなど、さまざまな音楽が演奏されました。

現状

現在、現存が確認されているPDP-1は3台のみで、全てコンピュータ歴史博物館が所蔵しています。1台はMITで使用されていたプロトタイプで、残りの2台は製品版のPDP-1Cです。製品版のうち1台（シリアル番号55）は修復され、動作可能な状態で展示されており、毎月2回、土曜日にデモンストレーションが行われています。もう1台（シリアル番号44）は、1988年にウィチタの納屋で発見されました。

コンピュータ歴史博物館では、1984年にTX-0関係者が集まり、PDP-1の設計がTX-0に影響を受けていることが議論されました。2006年には、PDP-1の復元を祝うイベントで、アラン・コトックが彼のMacintosh PowerBook G4がPDP-1よりも遥かに高性能であることを指摘しました。

PDP-1のシミュレータとしては、SIMHとMESSがあり、ソフトウェアの紙テープイメージはbitsavers.orgで入手可能です。

脚注

[関連項目]

スペースウォー!
計算機の歴史
PDPシリーズ: PDP-1, PDP-6, PDP-7, PDP-8, PDP-10, PDP-11, PDP-12

[外部リンク]

Restoring the DEC PDP-1 Computer Exhibit — コンピュータ歴史博物館のPDP-1復元プロジェクト
CHM Archives – コンピュータ歴史博物館のPDP-1復元プロジェクトに関する動画アーカイブ
PDP-1 Restoration Project – コンピュータ歴史博物館のPDP-1復元プロジェクト
DEC PDP-1 information – [email protected]によるウェブサイト
bitsavers.org PDP-1 directory
PDP-1 Music – PDP-1で作られた音楽が聴ける(MP3)
The Dot Eaters entry PDP-1とスペースウォー!開発について
Story of the development of the PDP-1 DECオリジナルの文書
PDP-1 emulator in Java running Spacewar! code.
DEC PDP-1 music (video on YouTube) - ウェイバックマシン（2007年11月28日アーカイブ分）
History of the PDP-1 at Stanford University
* Photo of PDP-1 at LRNL.

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