POWER9

POWER9（パワーナイン）

IBMによって2017年に発表されたPOWER9は、先進的な64ビットのマイクロプロセッサであり、Power Architectureを基盤としています。前世代であるPOWER8に続く位置づけとして開発され、スーパースカラー方式を採用した対称型マルチプロセッサ（SMP）システムの中核を担う存在です。

このプロセッサの製造には、高度な14nmプロセス技術とFinFET SOIが用いられています。POWER9は、異なるワークロードやシステム規模に対応するため、複数のバリエーションが提供されました。具体的には、スケールアウト用途として12コア構成（SMT8対応）と24コア構成（SMT4対応）、そしてスケールアップ用途として同様に12コア構成（SMT8対応）と24コア構成（SMT4対応）が登場しました。これにより、多様な計算ニーズに応じた柔軟なシステム構築が可能となっています。

POWER9アーキテクチャの特筆すべき点として、その仕様がOpenPOWER Foundationのメンバー企業に公開されていることが挙げられます。これにより、ライセンスを受けた企業は、POWER9をベースとした独自の製品開発やアーキテクチャの改良に取り組むことができ、エコシステムの拡大に貢献しています。

その開発経緯を辿ると、2016年9月に開催された技術カンファレンス「Hot Chips 28」にてその存在が先行して明らかにされました。そして、2017年12月5日には、POWER9を搭載した最初のシステム製品であるPower System AC922サーバーの出荷開始と併せて、正式に発表されました。さらに、2019年8月の「Hot Chips 31」では、入出力性能を強化したPOWER9 AIO（Advanced I/O）モデルが2020年に投入される予定であることが発表されています。

POWER9は、IBMのサーバー製品群であるPower Systemsの心臓部として、多岐にわたるモデルに採用されています。AIワークロードに特化したPower System AC922やPower System IC922、スケールアウト向けのS914、S922、S924、Linux専用のL922、SAP HANA向けに最適化されたH922、H924などがあります。また、ストレージを統合したLinuxシステムであるLC921、LC922や、大規模なスケールアップに対応するE980、E950といったエンタープライズ向けシステムにも搭載されています。これらのシステムは、発表時期がそれぞれ異なり、2017年12月から2020年3月にかけて順次投入されました。

IBM以外の企業や組織でもPOWER9の採用事例が見られます。日本の日立製作所は、ディープラーニング向けモデルであるSR24000/DL1にPOWER9を採用しました。Raptor Computing Systemsは、Talos IIやBlackbirdといったワークステーションおよびサーバー製品にPOWER9を搭載しています。Penguin Computingも、Magna PE2112GTXというシステムでPOWER9を利用しています。Googleは、Rackspaceとの共同開発によるZaius/Barreleye G2サーバーにPOWER9を採用し、2018年3月にはデータセンターへの設置を開始したと発表しています。

さらに、科学技術計算の分野においてもPOWER9は重要な役割を果たしています。アメリカ合衆国エネルギー省がオークリッジ国立研究所に設置したスーパーコンピュータ「Summit」や、ローレンス・リバモア国立研究所の「Sierra」といった、世界の計算能力ランキングで上位を占めるシステムの中核プロセッサとして、POWER9が採用されています。これらのスーパーコンピュータは、その高い計算性能によって、気候変動研究、核融合シミュレーション、ゲノミクスといった最先端の研究分野で活用されています。

POWER9は、その革新的なアーキテクチャと柔軟な構成オプション、そしてOpenPOWERエコシステムを通じた共同開発の推進により、エンタープライズコンピューティングからAI、HPC（高性能計算）に至るまで、幅広い分野でその能力を発揮したプロセッサと言えるでしょう。

関連事項として、POWER Architecture、POWERプロセッサの全体像、そして先代モデルであるPOWER8などが挙げられます。

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