PSR B1620-26

PSR B1620-26は、地球から見てさそり座の方向に約1万2400光年離れた宇宙空間に存在する、複数の天体から構成される複雑なシステムです。この系は、高速で自転しながら電磁波を周期的に放出するパルサー（PSR B1620-26 A）、その伴星である白色矮星（WD B1620-26 または PSR B1620-26 B）、そしてこれら二つの恒星の周囲を公転する太陽系外惑星（PSR B1620-26b）からなる、いわゆる三連星系です。

このシステムが特に注目されるのは、それが球状星団M4の内部に位置している点です。球状星団は、数万から数百万個の恒星が高密度に集まった、非常に古い恒星の集まりです。M4自体も約127億歳と推定されており、PSR B1620-26の恒星や惑星もこの星団が形成された初期に誕生したと考えられています。これは、宇宙に存在する既知の惑星系の中でも、極めて長い歴史を持つ部類に入ります。

発見とその経緯

PSR B1620-26に惑星が存在することが明らかになったのは、1990年代初頭の観測に遡ります。天文学者のドナルド・バッカーらが、当初は連星パルサーだと考えていたPSR B1620-26 Aの電磁波の観測を行っていました。パルサーからの信号は非常に規則的であるため、その周期のわずかな変化（ドップラーシフト）を精密に測定することで、パルサー自身の運動を知ることができます。バッカーらはこのドップラーシフトを詳細に解析する中で、パルサーと白色矮星の二つの天体だけでは説明できない、不規則な動きが存在することに気づきました。これは、この連星系に対して重力的な影響を及ぼす、第三の天体が存在することを示唆していました。

その後数年にわたる継続的な観測によって、この第三の天体が連星系の共通重心の周りをどのように運動しているかが詳しく調べられました。そして、その天体の重力効果から質量が計算された結果、それは恒星の質量としてはあまりに小さく、惑星の質量範囲内に収まることが判明したのです。この発見を受けて、1993年にはステファン・ソーセットらによって、PSR B1620-26が恒星だけでなく惑星をも伴う三連星系であるという結論が発表されました。

システムの特性と形成シナリオ

現在のPSR B1620-26システムは、パルサーと白色矮星が比較的近い軌道で互いを公転しており、その二つの天体の周囲を、さらに外側を惑星が公転するという階層構造を持っています。惑星の軌道は、パルサーと白色矮星の連星系全体を取り囲む形になっています。

このような特殊なシステムがどのように形成されたのかについては、理論的なシナリオが提唱されています。最も有力な説は、PSR B1620-26 Aが元々持っていた伴星（より軽い白色矮星と考えられている）が、当時まだ主系列星だった現在の白色矮星WD B1620-26との接近遭遇によって、軌道から弾き出され、代わりにWD B1620-26が捕獲されて連星系に加わったというものです。さらに、この際にWD B1620-26が保持していた惑星も同時にシステムに組み込まれたと考えられています。球状星団のような高密度な環境では、このような恒星間の動的な相互作用が頻繁に起こり得るとされています。この三連星系は、球状星団M4の中心部のすぐ外側に位置しており、このような動的な過程を経て現在の姿になった可能性が高いとされています。

このシステムとその惑星は、推定される年齢が約127億歳と非常に古いため、「最古の惑星」の一つとして、初期宇宙における惑星形成や進化を理解する上で重要な手がかりを与えています。

命名法に関する議論

このユニークな三連星系の命名法については、天文学者の間で一時的に議論がありました。一つの立場は、パルサーを主星と見なし、それに伴う天体をアルファベット順に命名するという慣例に従い、パルサーをPSR B1620-26 A、白色矮星をPSR B1620-26 B、そして惑星をPSR B1620-26cと呼ぶことを提案しました。もう一つの立場は、惑星が元々白色矮星（当時は主系列星）の周りを公転していた可能性を重視し、白色矮星にWD J1623-266という独立した名称を与え、惑星をWD J1623-266bと呼ぶことを主張しました。初期の論文では前者の命名法が使用されることが多かったようですが、現在では天体カタログなどでは後者の命名法が用いられることが主流となっています。

PSR B1620-26bは、パルサーの周りを公転する惑星である「パルサー惑星」の一例としても知られています。パルサー惑星は、多くの場合、超新星爆発を経て誕生したパルサーの激しい環境を生き延びた、あるいは形成後に捕捉されたと考えられており、一般的な恒星の周りを回る惑星とは異なる進化の過程をたどったと考えられています。

関連項目: PSR B1257+12, さんかく座δ星, パルサー惑星

もう一度検索