PX-L (航空機)

PX-L計画：P-2J後継対潜哨戒機の国産開発断念の経緯

PX-L計画とは、海上自衛隊が老朽化したP-2Jの後継機として計画した対潜哨戒機計画です。当初は国産開発を目指しましたが、最終的にはアメリカのP-3C オライオンのライセンス生産へと方針転換されました。本記事では、その開発経緯と断念に至るまでの詳細を解説します。

開発の背景

1960年代後半、P-2Jの量産開始直後から、開発を担当した川崎重工業は、早くもP-2Jの後継機となるべき機体の研究開発を社内プロジェクト「GK520」として開始していました。海上幕僚監部も1968年頃から次期対潜哨戒機の検討を開始。第三次防衛力整備計画において、昭和47年度以降に次期対潜機（PX-L）の開発に着手することを目指し、昭和45年度から必要な調査研究を行う計画を立てました。

しかし、この計画は当初、沿岸警備用の小型哨戒機の後継機研究として予算申請されたものが、承認後わずか2年程度で大型哨戒機へと方針転換されたため、大蔵省から不信感を招く結果となりました。

また同時期、アメリカ海軍は画期的な対潜戦システム（A-NEWシステム）の開発を進めており、海自は国産開発する対潜機への搭載を希望。1968年に米軍事顧問団（MAAG-J）へ資料提供を要請しましたが、1969年には拒否されるという状況でした。

これらの状況を踏まえ、海上自衛隊は、次期対潜機を搭載装備品を含めて日本で自主開発する方向で調査研究を進める必要性を認識するに至りました。

国産開発への模索と挫折

防衛庁は昭和46年度にPX-Lの国内開発に着手することを決意し、基本設計のための予算を盛り込みました。しかし、大蔵省からはコストの高さや必要性への疑問、調査研究結果への評価不足を指摘され、要求額の一部のみが技術調査研究委託費として認められるに留まり、基本設計には至りませんでした。ただし、この技術調査研究費によって、1971年9月、川崎重工業に計画設計や研究試験、量産機価格の見通しに関する技術調査研究が委託されました。

当初の計画では、1972年に基礎設計を完了させ、1973年には実大模型、1974年には試作機2機を制作し、1978年夏に完成させる予定でしたが、川崎重工業はすでに1970年には基礎設計をほぼ完了させており、1971年には実大模型の製作に着手していました。PX-Lの運用期間は1980年代後半から2000年頃までと想定されていました。

P-3C導入への転換

度重なる見送りを受け、海上幕僚監部は第4次防衛力整備計画でのPX-L本格開発に期待を寄せていましたが、1972年10月、国防会議議員懇談会において、次期対潜機等の国産化問題は白紙還元され、専門家会議で検討が継続されることになりました。

当時、海上自衛隊が保有していた固定翼対潜機は老朽化が進んでおり、早期の後継機配備が急務でした。専門家会議での検討が進められる中、アメリカ側からA-NEWシステム搭載のP-3Cの対日リリースが可能であるとの連絡を受け、P-3Cのデモフライトが実施された結果、その性能に深い感銘を受けました。

1974年12月に専門家会議から国産計画に疑問を呈する答申が提出され、海上幕僚監部は国産機では間に合わないと判断。P-3C導入に向けた実地調査を実施しました。国産機体にアメリカ製システムを搭載するという折衷案も検討されましたが、アメリカ側がP-3Cのシステムは機体とのセットでなければリリースしないと表明したため、断念せざるを得ませんでした。

これらの検討を経て、1977年8月、防衛庁はP-3C 45機をライセンス生産により取得することを決定。同年12月、国防会議においてP-3Cの導入が承認されました。

GK520の設計

国産対潜哨戒機として計画されたGK520は、ターボファンエンジンを搭載した低翼配置の4発機でした。1972年10月時点では、細部設計と一部構造の強度試験が進行していました。エンジンの信頼性を重視し、ロールス・ロイス製またはゼネラル・エレクトリック製のエンジンを搭載する予定でした。探知機器と情報処理システムの開発も課題とされていました。

P-3Aの戦術室乗員の座席配置が原因で痔になりやすいという話を受け、GK520の戦術室の座席配置はP-3Cと同様の前向きになるよう設計されました。

性能諸元（計画値）

乗員: 11名
全長: 35.0 m
全高: 11.0 m
翼幅: 30.0 m
最大速度: 880 km/h
航続距離: 6,482 km

まとめ

PX-L計画は、国産技術の育成と防衛力の強化を目指した重要なプロジェクトでしたが、コストや技術的な課題、そして時間的な制約から、最終的にはP-3Cの導入という形に落ち着きました。しかし、この計画を通じて得られた技術や経験は、後のP-1哨戒機の開発に活かされています。

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