Project Monterey

プロジェクト・モンテレーの概要

プロジェクト・モンテレーは、1998年10月にIBM、SCO、シークエントの3社によって発表された、広範囲なプラットフォームに対応する共通のUnix系オペレーティングシステム開発を目指した共同プロジェクトです。このプロジェクトは、32ビット(IA-32)から64ビット(IA-64)、さらにはマルチプロセッサ(POWER)までをカバーする壮大な計画でした。 当時、IA-64がUNIXサーバー市場を席巻するという見方が強く、プロジェクトの中心はIA-64向けの高信頼性UNIXの開発に置かれました。

IBMはAIXからPOWERおよびPowerPCのサポート機能を提供し、SCOはインテルのIA-32サポートを、シークエントはDYNIX/ptxからマルチプロセッサ機能を提供しました。インテルは、まだリリースされていなかったIA-64に関する情報を提供し、独立系ソフトウェアベンダーがIA-64向けにアプリケーションを移植する際の資金援助を行いました。

プロジェクトの進捗と頓挫

2001年5月、プロジェクトはIA-64向けのAIX-5Lのβ版完成を発表し、当初の目標を達成したかに見えました。しかし、インテルのItanium（最初のIA-64ハードウェア）のリリースが2年も遅れたため、Montereyのソフトウェアは市場価値を失ってしまいました。プロジェクトの主な目的は、IA-64への移植とDynixのマルチプロセッサ機能だけでなく、既存のUNIXの様々なバージョン間の機能を標準化し、全てを互換性のあるシステムにすることにありました。しかし、過去の同様の試み（例：3DA）と同様に、参加各社が自社の顧客を囲い込もうとする姿勢が強く、真の標準化が実現すれば顧客が他社に流出することを恐れたため、プロジェクトは難航しました。

プロジェクトは参加各社の足並みが揃わず、すぐに制御不能な状態に陥りました。各社は手早くLinux市場へ活路を求め、勝手な行動を取り始めました。シークエントは1999年にIBMに買収され、SCOは2001年にUNIX事業から撤退しました。同年、IBMはMontereyの失敗を公式に認めました。同時期に、インテル、IBM、カルデラなどはMontereyと並行して、LinuxをIA-64に移植するプロジェクト「Trillian」を進めており、こちらは2000年2月にコードを完成させています。

プロジェクト後の論争

後に、SCOとIBMの間で著作権を巡る問題が発生し、大きな注目を集めました。SCOは、MontereyプロジェクトにおいてIBMがSCOのコードを不正に持ち帰り、POWER用AIXの新バージョンやIA-32向けLinuxに組み込んだと主張しました。彼らの主張によれば、IBMはMontereyを利用してSCOを騙し、IBMのLinuxを強化するためにSCOのコードを無断で使用したというものでした。SCOは、Monterey自体が最初からIBMが自社の技術をLinuxに利用するための口実であり、製品としてリリースする意図はなかったとまで主張しました。

しかし、この主張には多くの疑念が残ります。IBMがMontereyの技術をPOWER用AIXに活用しようとしていたことは、当時のプレスリリースなどからも明らかでした。また、SCOも同時にTrillianのメンバーであり、IBMがLinuxに関してどのような計画を進めているか知っていた可能性が高いのです。実際には、IBMは2001年にMontereyのライセンスを32本販売し、2002年にも若干販売しています。

プロジェクトの教訓

プロジェクト・モンテレーは、技術的な可能性だけでなく、ビジネス上の利害関係や市場の変化がプロジェクトの成否に大きく影響することを示しました。また、各社の思惑が一致しないまま標準化を試みることの難しさも浮き彫りにしました。このプロジェクトは、後にSCOとIBMの間で著作権を巡る訴訟に発展し、ソフトウェア業界における知的財産権の重要性を再認識させることになりました。

プロジェクト・モンテレーは、結果として失敗に終わりましたが、その過程で得られた教訓は、今後のソフトウェア開発プロジェクトにおいて貴重な示唆を与えるものと言えるでしょう。

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