Q...

『Q...』

『Q...』は、1969年から1982年にかけて、英国BBC Twoで放送されたシュールレアリスム的なコメディ・スケッチ番組シリーズです。伝説的なコメディアン、スパイク・ミリガンが主演と脚本の大部分を務め、ニール・シャンドも脚本に貢献しました。共演者にはジュリア・ブレック、ジョン・ブルーサル、ボブ・トッド、ジョン・ウェルズらが名を連ねています。

全6シリーズが制作され、初期の5シリーズは『Q5』から『Q9』とナンバリングされ、最終シリーズは『There's a Lot of It About』と題されました。各シリーズは30分枠で、通常6話構成でしたが、『Q5』と『Q7』は7話で放送されました。合計38話が制作されましたが、現存するのは34話です。

タイトルに込められた意味

番組タイトルの『Q...』が何を意味するのかについては、複数の説が存在します。一つには、当時建造中だったキュナード・ラインの豪華客船クイーン・エリザベス2、通称「Q4」の影響が指摘されています。この船が1967年に進水した一方、シリーズは『Q5』から始まっています。もう一つの説は、当時のBBCが映像・音声の品質評価に使用していた6段階尺度にミリガンが着想を得たというものです。この尺度では、「Q5」は深刻な劣化を、「Q6」は完全な喪失を示していました。後にこの尺度は技術的な努力により9段階（「Q9」まで）に拡張されました。最終シリーズの『There's a Lot of It About』というタイトルについては、BBC側が「Q10」という呼び方が一般視聴者には分かりにくいと判断したため、変更されたとミリガンの伝記には記されています。

コメディ界における位置づけと影響

ミリガンが初期に関わった『ザ・グーン・ショー』などに見られる「行き当たりばったり」なスタイルから一線を画す『Q...』シリーズは、多くの批評家によって英国コメディの転換点と評価されています。特に、1969年3月に初回が放送された『Q5』の超現実的で意識の流れに沿ったような構成は、わずか数ヶ月後に放送を開始する『空飛ぶモンティ・パイソン』の方向性を決定づける先駆けとなりました。

モンティ・パイソンのメンバー自身も、『Q5』を見て、自分たちが目指していた非線形な構成が既に実現されていることに気づき、独自の視聴者を引きつける方法を模索したと語っています。マイケル・ペイリンは、『Q...』が大好きだったと述べ、「（ミリガンは）テレビの前の熱狂的なファンを巧みに操った最初の作家だ」と回想しています。ジョン・クリーズも、モンティ・パイソンの自伝などで『Q...』の影響について言及しています。

また、『Q5』シリーズの監督を務めたイアン・マクノートンは、その仕事ぶりがマイケル・ペイリンとテリー・ジョーンズに強い印象を与え、後の『空飛ぶモンティ・パイソン』で全45話中41話の監督を任されることになりました。

番組の特徴と制作背景

『Q...』シリーズでは、スパイク・ミリガンの自由奔放で予測不能なウィットが十全に発揮されました。スケッチは展開が早く、脈絡のない飛躍や、明確なオチがないことも珍しくありませんでした。衣装も型破りで、時にはBBCの衣装部のタグが付いたまま演技が行われることもありました。ミリガンは、大きな鼻と帽子を頻繁に身につけるのを好みました。

一方で、ユダヤ人やパキスタン人など、特定の人種に関する論争を呼ぶようなネタが含まれていたことは批判の対象となり、1970年代の基準に照らしてもリスクの高い側面を持っていたと言えます。レギュラー出演者のジュリア・ブレックは、着衣が乱れたグラマーな「引き立て役」としてほぼ全てのエピソードに登場しました。

BBCに対するミリガンの厳しい態度が影響し、シリーズ制作は断続的でした。『空飛ぶモンティ・パイソン』が比較的順調に制作されたのに対し、『Q6』の制作決定は1975年まで待たなければなりませんでした。その後も『Q7』（1977年）、『Q8』（1978年）、『Q9』（1980年）、そして最終シリーズ『There's a Lot of It About』（1982年）と、散発的に制作されました。ミリガンは、自身のシリーズが『モンティ・パイソン』などに比べて冷遇されていると感じて憤慨し、機会があればさらなる制作を望んでいたと伝えられています。脚本はミリガンとニール・シャンドが担当しましたが、後期にはデイヴィッド・レンウィック、アンドリュー・マーシャル、ジョン・アントロバスらが追加で脚本に貢献しているとクレジットされています。

現存状況と音楽要素

全38話のうち34話が現存していますが、これは当時のBBCが保管コスト削減のためマスターテープを破棄・再利用する方針（ワイピング）を採っていたためです。特に初期の『Q5』シリーズは大きな影響を受け、全7話のうち4話が消失し、2話はオリジナルのカラーではなく白黒フィルム記録としてしか残っていません。オリジナルのカラー映像で現存するのは1話のみで、エピソード番号は不明です。これらの現存クリップは、後のドキュメンタリー番組やBBCの特集番組で活用されています。一方、以降のシリーズは全話が現存しています。1980年代にはオーストラリアでも放送されましたが、これはミリガンが当時オーストラリアで活動していたためと推測されています。

番組内では、ミリガン自身やエド・ウェルチ、アラン・クレアによるピアノ演奏など、比較的「単純な」間奏曲が頻繁に演奏されました。また、ジャズグループやラグタイムバンド、シンガーソングライターなどがゲストとして出演することもありました。マイク・サムズ・シンガーズは、演奏の最後にカスタードパイを顔面に受けるというパフォーマンスを行いました。これらの音楽演奏の一部クリップは、BBC Fourのドキュメンタリーシリーズでも放送されています。

『Q...』シリーズは、その革新的なスタイルとスパイク・ミリガンの奔放な才能によって、英国テレビコメディ史に確固たる足跡を残しています。

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