QPS研究所

株式会社QPS研究所

株式会社QPS研究所（Institute for Q-shu Pioneers of Space, Inc.、通称：iQPS）は、九州大学で培われた先進技術を基盤とする宇宙ベンチャー企業です。主な事業内容は、高性能な小型合成開口レーダー（SAR）衛星の開発・運用、そこから取得されるデータの販売、そしてこれらの衛星データを活用したソリューションサービスの提供です。具体的には、インフラの管理効率化、農業や漁業の生産性向上、物流の最適化、災害発生時の迅速な状況把握、さらには自動運転に必要な高頻度・高精細な3Dマップの実現など、多岐にわたる分野での利活用を目指し、企業や政府機関向けのサービスを展開しています。

設立と歩み

QPS研究所の歴史は、1995年に九州大学で始まった小型衛星開発プロジェクトに源流を持ちます。テザーダイナミクス研究衛星やオーロラ帯観測衛星の開発を経て、2005年6月には「九州発の小型衛星」実現を掲げるQPS研究会から、任意団体としての活動を発展させる形で設立されました。九州大学との連携はその後も続き、超小型衛星開発事業での採択や、小型人工衛星「つくし（QSAT-EOS）」の打ち上げ成功（2014年）へと繋がります。創業者の理念を受け継いだ大西俊輔氏が、困難な経緯を経て入社後まもなく社長に就任したエピソードは、同社の情熱的な企業文化を象徴しています。

SAR衛星コンステレーション計画

同社の中核事業は、小型SAR衛星群「QPS-SAR」によるコンステレーション構築です。衛星は軌道ごとに命名され、古事記や日本神話に登場する神々の名が冠されています（イザナギ、イザナミ、ツクヨミ、アマテル、スサノオなど）。将来的には36機体制を目標とし、世界のほぼ任意の場所を平均10分間隔で観測可能な「準リアルタイムマップ」の実現を目指しています。

主な衛星とその実績

- QPS-SAR 1号機「イザナギ」: 日本初の100kg台小型SAR衛星として2019年に打ち上げられた実証機。衛星機能の大部分を確認しましたが、画像化には至らず、次号機での改良に繋がりました。
- QPS-SAR 2号機「イザナミ」: イザナギの改良機として2021年にSpaceXにより打ち上げ。小型SAR衛星として日本初のアジマス分解能1.8m、後にレンジ分解能0.7mという高精細な画像取得に成功し、衛星データ活用の共同実証が加速しました。
- QPS-SAR 3/4号機「アマテル-I/II」: 2022年にイプシロンロケット6号機に搭載されましたが、ロケットの異常により軌道投入はかないませんでした。
- QPS-SAR 6号機「アマテル-III」: 2023年にSpaceXにより打ち上げ成功。民間のSAR衛星として日本最高精細度（レンジ分解能46cm、後に39cm）を達成。また、衛星上でSARデータを画像化する「軌道上画像化装置（FLIP）」の実証に成功し、データ提供の即応性を大幅に向上させました。
- QPS-SAR 5号機「ツクヨミ-Ⅰ」: 2023年にRocket Labにより打ち上げ成功し、中傾斜軌道に投入。ファーストライトも取得しましたが、後に送信部に不具合が生じ、継続運用に支障が出ました。
- QPS-SAR 7号機「ツクヨミ-Ⅱ」: 2024年にSpaceXにより打ち上げ成功。高精細モードでの画像取得も確認されました。
- QPS-SAR 8号機「アマテル-Ⅳ」: 2024年にSpaceXにより打ち上げ成功。最新の高精細画像を取得しています。
- QPS-SAR 9号機「スサノオ-Ⅰ」: 2025年にRocket Labにより打ち上げ成功。ツクヨミとは異なる中傾斜軌道に投入され、新たな観測網を構築しています。

多角的な連携と事業拡大

同社はJAXAをはじめ、九州電力、スカパーJSAT、日本工営、ウェザーニューズ、NTTグループなど、国内外の様々な機関や企業と積極的に連携しています。衛星データの共同実証や新たなサービス開発、運用体制の強化など、多岐にわたる協業を通じて事業領域を拡大。防衛省や国土交通省といった政府機関からの受注も増加しており、事業基盤を強化しています。

資金調達と上場

設立以来、段階的に大規模な資金調達を実施し、開発・運用体制を拡充してきました。2023年12月には東京証券取引所グロース市場に上場を果たし、宇宙分野における国内2社目の上場企業となりました。新株予約権の発行などを通じた継続的な資金調達により、今後の衛星量産や技術開発に必要な資金を確保しています。

生産体制の強化

衛星コンステレーションの構築に向けた量産体制確立のため、福岡市近郊に新たな研究開発拠点「Q-Space Innovation Palace（Q-SIP）」を新設。従来の工場と比較して10倍以上の面積を持つこの拠点では、年間10機体制での衛星製造を目指しており、2025年初頭からの本格稼働を予定しています。先進的な試験設備の導入により、開発・製造スピードの向上が期待されています。

社会への貢献とサステナビリティ

QPS研究所は「宇宙産業を九州に根付かせる」という創業からの志と、「宇宙の可能性を広げて人類の発展に貢献する」というミッションを掲げています。高精細SAR衛星データは、災害対策、資源管理、環境モニタリングなど、SDGsにも繋がる様々な社会課題の解決に貢献する可能性を秘めています。また、衛星運用終了後の宇宙デブリ化を防ぐための対策（スラスター搭載など）にも取り組んでいます。次世代への宇宙産業啓発活動や、女性活躍推進への積極的な取り組み（えるぼし認定）など、持続可能な社会づくりへの貢献も重視しています。

受賞歴

技術力や事業性が高く評価されており、フクオカベンチャーマーケット大賞、九州未来アワード、フクオカRuby大賞など、多数の賞を受賞しています。特に、2022年には「第5回宇宙開発利用大賞」で最高位の内閣総理大臣賞を受賞したことは、その貢献が国レベルで認められたことを示しています。直近では「Technology Fast 50 2024 Japan」で国内第2位となるなど、目覚ましい成長を遂げています。

経営状況と今後の展望

近年は衛星の商用運用開始に伴い売上を大きく伸ばし、2024年5月期には黒字転換を達成しました。一部衛星のスラスター不具合による減損損失計上など課題もありますが、改良や運用改善を進めています。今後は防衛省からの大型受注や宇宙戦略基金への採択などを通じて、さらなる事業拡大と技術革新を目指すとともに、衛星コンステレーションの早期完成に向けて開発・製造・打上げを加速させていく計画です。新しい研究開発拠点の本格稼働や東京拠点の設置なども、今後の事業展開を支える重要な要素となります。

QPS研究所は、小型SAR衛星という独自の強みを活かし、宇宙利用の可能性を広げながら、地球上の様々な課題解決に貢献していくことが期待されています。

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