R-39 (ミサイル)

R-39[潜水艦発射弾道ミサイル]

R-39は、かつてソビエト連邦で開発・運用されていた潜水艦発射弾道ミサイル（SLBM）です。ソ連で2番目に開発された固体燃料ロケットSLBMであり、史上最大級の原子力潜水艦であるタイフーン級に搭載されていました。アメリカ国防総省識別番号はSS-N-20、NATOコードネームはSturgeon、ロシアの工業番号は3M65、条約番号はRSM-52です。

開発と運用

R-39の開発は1973年9月に始まり、タイフーン級原子力潜水艦に20基ずつ搭載され、1983年5月から運用が開始されました。しかし、ソ連崩壊後の予算不足により、タイフーン級潜水艦3隻が解体され、R-39も短命に終わりました。

特徴

R-39は、大陸間弾道ミサイル（ICBM）に匹敵する長射程を持つ多弾頭（MIRV）ミサイルです。固体燃料ロケット三段式を採用し、過塩素酸アンモニウムを推進剤として使用します。ペイロードには液体燃料ロケットPBV（Post Boost Vehicle）を搭載し、PBVは10個の再突入体（RV）を目標へ向けて個別誘導します。

ミサイル発射時には、発射管底部に設置されたガス発生装置から発生するガス圧でミサイルを射出します。射出時には、ノーズコーンに設置された追加モーターからガスを噴射し、ミサイル周囲に気泡を形成することで、海水との抵抗を減らす工夫が凝らされています。この発射システムにはD-19という識別番号が付与されています。

海中から射出されたミサイルは、空中でロケットエンジンに点火し、目標へ向かって飛行を開始します。第一段はノズル周辺の噴射バルブ、第二段、第三段は可動ノズルによる推力偏向制御によって姿勢制御を行います。

開発の経緯

R-39の開発は1971年にNII Машиностроения（OKB-385）でV.P.マケイエフの指揮の下で始まり、1973年9月に正式に設計が承認されました。1979年から初期発射試験が開始され、海上発射台から9回、潜水艦から7回、陸上発射台から17回実施されましたが、半数以上が失敗に終わりました。原因究明の結果、第一段、第二段固体ロケットエンジンに問題があることが判明し、改修が行われました。その後、改修されたタイフーン級潜水艦TK-208で13回の発射試験が行われ、11回が成功し、1983年5月に実戦配備されました。

1989年末までに、20基のR-39ミサイルを搭載したタイフーン級潜水艦が6隻就役し、合計1,200発の核弾頭が120基のミサイルに搭載されて配備されました。R-39は従来のSLBMと比較して非常に大型であり、それを搭載する潜水艦も必然的に巨大化しました。

生産と退役

R-39は、第一段ロケットをウクライナで、第二段、第三段ロケットと弾頭部をロシアで生産していました。ソ連崩壊後、ウクライナでの第一段ロケット製造が不可能になったため、R-39の生産は途絶えました。R-39ミサイルの寿命は約15年とされており、1990年代以降、順次退役が進められました。

1995年8月25日には、タイフーン級原子力潜水艦TK-20が北極海からR-39ミサイルの発射実験に成功しました。1998年には、タイフーン級原子力潜水艦からR-39ミサイル20基の一斉発射実験が最初で最後に行われ、R-39の信頼性の高さが改めて確認されました。しかし、同年末までにR-39は60基しか残っていませんでした。

2004年には、最後まで残っていた10基のR-39ミサイルが廃棄され、ロシア海軍からR-39は完全に姿を消しました。

後継と今後

タイフーン級に搭載されたR-39の後継として、新型SSBNであるボレイ級に搭載するR-39UTTKhバルクが開発されましたが、予算不足から試験が不十分となり、発射テストが全て失敗に終わったため、開発は中止されました。

ロシアは固体燃料SLBMの利点を認識しており、ボレイ級には固体燃料ミサイルである3M14ブラヴァーが搭載されています。ブラヴァーはICBM RT-2PM2トーポリMの艦載バージョンであり、そのルーツを辿るとRSD-10ピオネールに行き着くと言われています。

主要諸元

全長：8.4m（弾頭部含め16m）
直径：2.4m
重量：90t
ペイロード：2,550kg
弾頭：200kt核弾頭×10
射程：8,250km
* CEP：500m

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