RASIS

RASISとは

RASIS（レイシス、またはラシスと読みます）は、コンピュータシステムやその他様々な機器・サービスの総合的な品質や性能を評価するための主要な指標群を指します。これは、以下の5つの重要な要素の頭文字を組み合わせた造語です。

- Reliability（信頼性）
- Availability（可用性）
- Serviceability（保守性）
- Integrity（完全性）
- Security（機密性）

特に最初の3つの要素、すなわち信頼性（Reliability）、可用性（Availability）、保守性（Serviceability）は「RAS」としてまとめて扱われることもあります。これらの指標は、単にシステムの機能が優れているかだけでなく、それがどれだけ安定して稼働し続け、利用者の期待に応えられるかを包括的に評価するために不可欠です。

各要素の詳細

それぞれの要素がどのような意味を持つのか、具体的に見ていきましょう。

Reliability（信頼性）

信頼性とは、システムが特定の条件下で、意図された機能を一定期間にわたって安定して遂行し続ける能力を指します。簡単に言えば、「どれだけ故障しにくいか」ということです。この信頼性を評価する代表的な指標の一つに、平均故障間隔（MTBF：Mean Time Between Failures）があります。これは、システムがある時点から次の故障が発生するまでの稼働時間の平均を示し、数値が大きいほど信頼性が高いと判断されます。

Availability（可用性）

可用性とは、システムが必要とされたときに、いつでも利用可能な状態である度合いを示します。これはサービスが停止せず、継続して提供されているかという視点です。可用性は通常、稼働率という指標で評価されます。この稼働率は、システムの総稼働時間に対する、実際に利用可能であった時間の割合で計算されます。後述の信頼性（MTBF）と保守性（MTTR）を用いて算出することができます。

Serviceability（保守性）

保守性とは、システムに障害が発生したり、性能を向上させたりする必要が生じた際に、どれだけ容易に、そして迅速に修復やメンテナンスが行えるかという能力を指します。つまり、「どれだけ修理・保守しやすいか」ということです。保守性の指標としては、平均修理時間（MTTR：Mean Time To Repair）がよく用いられます。これは、システムが故障してから修理が完了し、再び稼働可能になるまでの平均時間を示し、数値が小さいほど保守性が高いとされます。

可用性の指標である稼働率は、この信頼性（MTBF）と保守性（MTTR）から以下の関係で導き出されます。

稼働率 = MTBF / (MTBF + MTTR)

この式からもわかるように、信頼性（MTBFの向上）と保守性（MTTRの短縮）の両方が高まることで、システムの可用性（稼働率）も向上します。

Integrity（完全性）

完全性とは、システム内のデータや情報が正確であり、不正な方法で変更されたり、破壊されたりしていないことを保証する性質です。データの整合性が保たれ、信頼できる状態であるかが重要になります。

Security（機密性）

機密性とは、システム内の情報資産や機能が、許可された正規の利用者だけによってアクセスされ、利用される性質です。これは、情報漏洩や不正アクセス、データの改ざんなどからシステムやデータを保護する能力を意味します。

歴史的背景

RASの3つの要素（信頼性、可用性、保守性）をシステムの評価指標として重視する考え方は、IBMが1970年6月に発表した大型コンピュータであるSystem/370シリーズにおいて、その特徴を訴求する際に提唱されたことに始まります。System/370は、1964年に登場した汎用コンピュータSystem/360シリーズの後継として開発されました。IBMはSystem/370でRASという新たな評価軸を取り入れ、その高い品質と安定性を市場にアピールしました。

当時、IBMと競合し、同等レベルの機能やサービスを提供していた日本のコンピュータメーカーである富士通や日立も、IBM 互換機として展開していたMシリーズにおいて、互換性の観点からIBMが掲げたRASの機能を実装しました。このような主要ベンダーが製品開発や評価においてRASを重視した経緯を経て、この概念はコンピュータ業界に広く浸透しました。そして、後に完全性（I）と機密性（S）が加えられ、RASISという形でコンピュータ分野に留まらず、現在では様々な分野でシステムの評価や要求定義に用いられる一般的な頭字語となっています。