RD-0120

概要

RD-0120は、旧ソビエト連邦が開発した巨大ロケット「エネルギア」のコアステージに搭載された、液体水素と液体酸素を推進剤とする高性能ロケットエンジンです。別称として11D122とも呼ばれます。これは、アメリカのスペースシャトルに搭載された主エンジン（SSME）に匹敵する役割と性能を持つエンジンとして開発されました。

SSMEが軌道船（オービター）に搭載され、ミッション後に回収・再利用されたのに対し、RD-0120は使い捨てとなるエネルギアのコアステージに取り付けられていました。飛行後の回収は想定されていませんでしたが、設計自体はモジュラー方式を採用しており、将来的な再使用を可能とする構想も存在しました。エネルギアは、スペースシャトル「ブラン」の打ち上げのみならず、大型ペイロードの軌道投入など、多様なミッションに対応可能な汎用ロケットとして設計されていました。

設計思想と技術的特徴

RD-0120は、基本的にアメリカの水素-酸素エンジン技術と比較しても成熟度が高いと評価される一方で、ロシア独自の技術革新や手法が随所に採用されており、SSMEとは異なる特徴を持っています。推進剤はLOX（液体酸素）とLH2（液体水素）を使用し、サイクル形式はSSMEと同様の燃料リッチ二段燃焼サイクルを採用しています。これにより、理論的な比推力に近い高い性能を達成しています。

燃焼室圧力は21.8 MPaと、SSMEよりも高い値を実現しています。一方で、構造の単純化と低コスト化を優先した結果、推力重量比はSSMEに比べてやや劣ります。この設計思想は、特にターボポンプの構成に顕著に現れています。SSMEが独立した液体水素ポンプと液体酸素ポンプを備えるのに対し、RD-0120は単一の軸で燃料ポンプと酸化剤ポンプの両方を駆動する単軸ターボポンプ構成を採用しています。この構成は、ケロシンやヒドラジンを推進剤とするロシアの大型エンジン、例えばRD-170などで実績のある方式であり、液体水素エンジンとしては珍しい設計思想に基づいています。

単軸ターボポンプ構成は、効率がやや低下するという側面があるものの、エンジンの始動や制御が比較的容易になり、全体構造をSSMEよりも単純化できるという利点があります。また、RD-0120は燃焼安定化のためにSSMEで必要とされる音響共鳴器を使用せずとも、安定した燃焼を達成できる点も特筆すべき特徴です。さらに、チャンネルウォールノズルのような、ロシア独自のより単純で製造コストの低い設計手法の一部は、1990年代末に米国のロケットダイン社（SSMEの開発元）によってSSMEへの技術導入が検討されたことがあります。

再使用性と整備性

RD-0120は、エネルギア計画における実際の運用では使い捨てでしたが、設計レベルでは再使用可能なエンジンとして開発されました。整備性も考慮されており、エンジンを機体から取り外すことなく、主要部品であるターボポンプの点検や交換が可能となるよう配慮されています。

エンジンの再使用寿命は運用推力レベルによって大きく変動すると予測されていました。最大推力に近い106%相当での運用では4回程度の再使用に留まるものの、公称推力である100%相当での運用では8〜9回に増加すると試算されていました。さらに、タービンなどの主要部品を改良することで、100回以上の再使用も技術的には可能と予測されており、設計のポテンシャルの高さを示していました。

主要仕様

以下に、RD-0120の主要な仕様を示します。

推力 (真空): 1.8639 MN (約190 tf)
推力 (海面高度): 1.5171 MN
比推力 (真空): 454秒 (約4449 m/s)
比推力 (海面高度): 359秒
燃焼時間: 通常運用 480-500秒、認定試験 1670秒
基本重量: 3,449 kg
全長: 4.55 m
直径: 2.42 m
推進剤: 液体酸素 (LOX) & 液体水素 (LH2)
燃焼サイクル: 燃料リッチ二段燃焼サイクル
主燃焼室圧力: 21.8 MPa
混合比 (LOX:LH2): 6:1
ノズル開口比: 85.7
製造者: KB Khimavtomatiki (キマフトマティキ)
* 搭載機: エネルギアコアステージ

これらの仕様からもわかるように、RD-0120は高い性能を持ちながら、エネルギア計画の要求に応じた独自の設計思想に基づいて開発された、ソ連を代表する液体水素エンジンの一つと言えます。

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