RD-117

RD-117（11D511）

RD-117エンジン（GRAUインデックス：11D511）は、ソ連時代に開発され、現在もロシアの宇宙開発において重要な役割を果たす液体燃料ロケットエンジンです。特に、信頼性の高い打ち上げシステムとして知られるソユーズ-Uロケットの第一段に使用されています。このエンジンは、先行モデルであるRD-107エンジンの改良型として設計されており、その基本的な構造と性能を継承しつつ、信頼性や製造性の向上が図られています。

設計思想と特徴

RD-117は、推進剤としてケロシン（灯油）と液体酸素を使用する組み合わせを採用しています。この組み合わせは、宇宙開発の黎明期から広く用いられており、取り扱いの容易さと高い性能を両立しています。エンジンサイクルとしては、ガス発生器サイクルを採用しています。これは、推進剤の一部を燃焼させて高温・高圧のガスを生成し、そのガスでターボポンプを駆動して主燃焼室に推進剤を供給する方式です。構造が比較的シンプルで信頼性が高いという利点があり、ソ連/ロシアのロケットエンジンの多くで採用されています。

RD-107からの改良型であるRD-117は、その設計において、全てロシア製の部品を使用することに重点が置かれています。これにより、国内での安定した生産と供給体制が確保されています。エンジンの全長は約2.87メートル、最大直径は約1.85メートル、乾燥重量は約1,100キログラムです。

性能諸元

RD-117は、ソユーズ-Uロケットの打ち上げにおいて、第一段クラスターの一部として推力を供給します。その性能は以下の通りです。

サイクル: ガス発生器サイクル
推進剤: 液体酸素（LOX）/ケロシン
推力:
海面高度: 778.65キロニュートン（約79,400重量キログラム）
真空中: 991.00キロニュートン（約101,054重量キログラム）
比推力（エンジンの効率を示す指標）:
海面高度: 253秒
真空中: 316秒
燃焼時間: 約130秒
燃焼圧力: 53.2バール（5.32メガパスカル）
* 推力重量比: 72.18

海面高度での高い推力は、ロケットが地球の重力と大気抵抗に打ち勝って上昇を開始するために非常に重要です。真空中でさらに推力と比推力が増加するのは、大気圧による抵抗がなくなるためです。

運用と実績

RD-117エンジンを搭載したソユーズ-Uロケットは、2001年以降、多数の打ち上げに使用されてきました。ソユーズ-Uは、国際宇宙ステーション（ISS）への人員や物資の輸送、様々な人工衛星の軌道投入など、幅広いミッションに利用された実績豊富なロケットです。RD-117は、このソユーズ-Uロケットの高い信頼性と成功率を支える基幹部品の一つとして、長年にわたり貢献してきました。RD-107の改良型として開発された背景には、既存の優れた技術を継承しつつ、運用上の要求に応じた性能維持や改善を目指す意図があったと考えられます。

RD-117は、その堅牢な設計と実績に基づいた信頼性により、ソユーズロケットファミリーの進化において重要な役割を果たしています。ケロシン/液体酸素推進剤とガス発生器サイクルという古典的ながら実証済みの技術を基盤としつつ、改良によって現代の打ち上げニーズに応え続けているエンジンと言えます。

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