RD-107

RD-107（ロシア語: РД-107、GRAUコード: 8D74）は、旧ソビエト連邦、現在のロシア連邦において、宇宙開発の歴史を語る上で欠かせない、最も成功し、長く使用されている液体燃料ロケットエンジンのひとつです。その運用は1957年に始まり、初期の弾道ミサイルR-7、そして後に宇宙輸送システムとして発展したソユーズロケットファミリーにおいて、その強力な推進力で第一段を担ってきました。

開発と設計

RD-107エンジンは、ソビエト連邦の伝説的なロケットエンジン設計者、ヴァレンティン・グルシュコが率いるOKB-456（現在のNPOエネゴマシュ）によって、1954年から1957年にかけて集中的に開発されました。このエンジンの推進剤としては、広く用いられる液体酸素とケロシンが選択されています。エンジンシステムは、特徴的な4基の燃焼室と、これらの燃焼室へ推進剤を供給するためのターボポンプで構成されています。ターボポンプは、過酸化水素を分解して発生する水蒸気によって駆動されるシンプルな方式を採用しており、システムの信頼性向上に寄与しています。

ソユーズロケットでは、中央コアブロック（第二段とされることもある）には、RD-107と多くの設計要素を共有するRD-108エンジン（GRAUコード: 8D75）が搭載されています。RD-107がロケットの第一段クラスター（俗に「ブースター」と呼ばれる部分）の各ブロックに使用されるのに対し、RD-108は中央コアに使用されます。これら二つのエンジンの主な構造的な違いは、ロケットの姿勢を制御するための小型スラスターであるバーニアスラスターの数です。RD-107は2基のバーニアスラスターを備えているのに対し、中央コア用のRD-108は4基を装備しており、より精密な姿勢制御を可能にしています。

製造

RD-107およびRD-108エンジンは、開発元であるNPOエネゴマシュの技術監督のもと、ロシア国内、特にサマーラにある工場で現在も生産が続けられています。半世紀以上にわたる製造・運用実績は、その設計の優秀さと製造技術の高さを証明しています。

バージョン

長期間にわたる運用の歴史の中で、RD-107エンジンには様々な改良が施され、複数のバージョンが存在します。

主なRD-107のバージョン:
8D74 (初期型)
8D728 (RD-107M)
11D511 (RD-117)
14D22 (RD-107A)

同様に、RD-108エンジンにも以下のバージョンがあります。

主なRD-108のバージョン:
8D75 (初期型)
8D727 (RD-108MM)
11D512 (RD-118)
14D21 (RD-108A)

特に重要な改良型であるRD-107A（14D22）とRD-108A（14D21）の開発は1986年に開始されました。これらの新しいバージョンでは、インジェクターヘッドの設計が一新されたことにより、推進剤の混合効率と燃焼安定性が向上し、エンジンの性能指標である比推力の顕著な向上が実現されました。RD-107A/RD-108Aエンジンは、2001年5月にプログレスM1-6補給船の打ち上げに使用されたソユーズFGロケットで初めて実運用されました。そして、2002年10月以降、国際宇宙ステーションへ宇宙飛行士を運ぶ有人宇宙船ソユーズの打ち上げにも継続して使用されており、有人宇宙飛行におけるその信頼性は高く評価されています。

仕様

主要なRD-107エンジンのバージョンである初期型(8D74)と改良型(14D22)の性能諸元を以下に示します。


上記の表から、RD-107Aは初期型に比べて、推力、比推力、燃焼圧力の全てにおいて性能が向上していることが確認できます。特に比推力の向上は、ロケットのペイロード能力に直接影響を与える重要な要素です。重量は両バージョンでほぼ同じであり、改良が重量増に繋がっていないことも特筆すべき点です。

まとめ

RD-107およびその派生型エンジンは、旧ソビエト時代から現在のロシアに至るまで、半世紀以上にわたり宇宙開発の最前線で活躍し続けている稀有な存在です。R-7からソユーズへと続くロケットファミリーが、現在もなお国際宇宙ステーションへの人員・物資輸送や様々な衛星打ち上げに利用されているのは、このエンジンの信頼性と継続的な改良の賜物と言えます。その堅牢な設計と、過酷な宇宙空間での運用に耐えうる実績は、世界のロケットエンジン史においても特筆すべき功績であり、未来の宇宙輸送システム開発においても重要な参考となる「生きた遺産」と言えるでしょう。

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