RD-120

RD-120ロケットエンジン

RD-120（GRAUインデックスでは11Д123）は、ソビエト連邦（現在のロシア）のエネルギー・マシナリー設計局（エネゴマシュ）によって開発された液体燃料ロケットエンジンです。主に、ゼニットシリーズのロケットの第2段用として設計され、真空での運転に特化しています。生産はウクライナのユージュマシュ工場で行われています。ソビエトの著名なロケットエンジン設計者、ヴァレンティン・グルシュコ氏の指揮のもと、1976年から1985年にかけて開発が進められました。

開発の経緯と初期の飛行

RD-120の開発は、ゼニットロケット計画の開始と時を同じくして、1976年3月16日にソビエト連邦の政府機関の決定に基づきエネゴマシュでスタートしました。主任設計者であるヴィタリー・ラドフスキー氏の監督のもと、目標はゼニットロケットの第2段に求められる、より高い比推力を真空環境で実現する単一燃焼室のエンジンを開発することでした。開発は順調に進み、1982年までにエネゴマシュで最初の試験機が製造され、その後、製造はユージュマシュに移管されました。地上試験は1985年まで続けられました。

RD-120を搭載した最初のゼニットロケットの打ち上げは、1985年4月12日にバイコヌール宇宙基地から予定されていました。しかし、打ち上げ直前の技術的な問題により中止され、翌日の4月13日に実施されました。この初の打ち上げは、離昇自体は成功したものの、燃料供給制御の不具合が原因で過剰な燃料を消費し、ケロシン燃料が早期に枯渇。打ち上げから410秒後に制御を失い、計画は失敗に終わりました。この不具合は、燃料消費量を抑えるために直前に行われた制御プログラムの変更によるものと特定されました。

2回目の打ち上げは同年6月21日に行われましたが、再び第2段が原因で失敗しました。この時はRD-120主エンジンは正常に作動したものの、姿勢制御を担当するRD-8バーニアエンジンが爆発したことが原因でした。度重なる失敗を経て、3回目の打ち上げが同年10月22日に実施され、これが初めての完全な成功となりました。

技術的な特徴

RD-120は、液体酸素とケロシンを推進剤として使用する二段燃焼サイクルのエンジンです。特徴的なのは、酸化剤リッチな予燃焼ガスでターボポンプを駆動する点です。このターボポンプによって供給された推進剤は、予燃焼室で一部が燃焼し、その高温・高圧ガスがタービンを回します。タービンを回したガスは、そのまま主燃焼室に送られ、残りの燃料と混合されて完全に燃焼します。この方式により、高い燃焼室圧力（最大160気圧）と効率的な運用が可能となります。タービン駆動後のガスを無駄なく主燃焼室で再利用する設計も、RD-120の効率性を高めています。

ゼニットの第2段に搭載されるRD-120主エンジン自体は機体に固定されており、首振り機能はありません。機体の姿勢制御は、RD-120エンジンの周囲に配置された4基のRD-8バーニアエンジンによって行われます。RD-8は、各ノズルが1軸方向に±33度の範囲で角度を変えることができるジンバル構造を採用しています。

また、RD-120は出力を公称値の80%まで絞ることが可能なスロットリング機能も備えています。

派生型

RD-120には、いくつかの派生型が存在します。

推力増強型: 2001年から開発が始まり、2003年以降のゼニット3SLロケットなどに使用されています。オリジナルと比較して約10%推力が増強されています。
大気圧対応型 (RD-120K/RD-120M): RD-120K（RD-123とも呼ばれる）およびRD-120Mは、ロケットの第1段での使用を想定し、海面高度での運転に最適化された派生型です。これらは、真空での使用に最適化されたオリジナルとは異なり、ノズル長が短縮されており（膨張比が小さい）、エンジンのチャンバー自体が2軸方向に±6度の首振りが可能なジンバル構造を持っています。これらの派生型の開発は1994年頃に始まり、1996年に試作機が試験されましたが、現在までにこれらのエンジンを使用する打ち上げロケットは実用化されていません。

国際的な評価

RD-120は、その性能から国際的にも注目されました。1995年10月には、ロシア製ロケットエンジンとしては歴史上初めて、アメリカ合衆国のプラット＆ホイットニー社のE-8試験台で性能試験が行われました。これは、アメリカ製のケロシン燃料を使用した際の性能や、アメリカのロケットに搭載した場合の適合性を評価するためであり、試験は成功裏に終わりました。

さらに、オービタル・サイエンシズ社が当時開発を進めていた再使用型宇宙往還機X-34への搭載も検討されました。比較候補であったアメリカ製エンジンRS-27と比べ、RD-120はより強力で好ましいと評価されました。しかしながら、X-34計画は1996年に作業が中断され、最終的に打ち切られたため、RD-120のアメリカでの使用は実現しませんでした。

使用実績

1985年の最初の打ち上げから2006年までに、推力増強型を含め合計60基のRD-120エンジンがゼニットシリーズのロケットで使用されました。

もう一度検索