RIMFAX

火星の地下を探る目：RIMFAX

火星探査ミッション「マーズ2020」において、NASAの探査車パーサヴィアンスは火星表面の探査だけでなく、その地下構造にも迫っています。その重要な役割を担う観測機器の一つが、火星の地表下実験用レーダー映像装置、通称「RIMFAX」（Radar Imager for Mars' subsurface experiment）です。RIMFAXは、地中レーダー（GPR: Ground Penetrating Radar）の技術を用いて、火星の地下に隠された地質学的特徴や物質の分布を明らかにするためのものです。

地下構造を読み解く技術

RIMFAXは、特定の周波数の電磁波を火星の地面に向けて送信し、そこから反射されてくる信号を受信することで地下の様子を探ります。異なる物質や構造の境界面では電磁波の反射特性が変わるため、反射信号の時間的な変化や強弱を分析することで、地下の層の構造、埋没した岩石、さらには水や氷の存在を示唆する可能性のある領域などを画像化することができます。RIMFAXは特に、深さ数十メートルにも及ぶ地下を調査する能力を持ち、開発段階では約10メートル程度の深さを検出対象として、氷河上での試験でその性能が確認されました。

このレーダーは、150MHzから1200MHzの幅広い無線周波数帯で動作します。送信と受信には「ボウタイ」と呼ばれるスロットアンテナを一つだけ使用し、ゲート付き周波数変調連続波（FMCW）と呼ばれる方式を採用しています。この方式では、送信機と受信機の間でアンテナを高速に切り替えることで、効率的に地下をプローブします。パーサヴィアンスが火星の表面を移動する際に、RIMFAXは車両の経路に沿って約10〜20cm間隔で連続的にレーダー探査を行い、地下構造の二次元断面画像を生成していきます。

開発と運用の背景

RIMFAXは、ノルウェー防衛技術研究機構（FFI）によって開発・製造されました。FFIはこれまでにも多数のGPR機器を手掛けており、その豊富な経験がRIMFAXにも活かされています。2014年7月、RIMFAXはNASAによって火星2020ローバーに搭載される観測機器の一つとして正式に選ばれ、2018年12月にはローバーへの組み込みのため、NASAのジェット推進研究所（JPL）に納入されました。

探査車パーサヴィアンスの下部後方に設置されたRIMFAXは、砂丘、溶岩流、構造層、埋没した岩石や隕石など、様々な地下の特徴を画像化することを目的としています。特に、地下10メートル（約33フィート）までの深さにある水氷や塩水の検出を目指しており、これは火星の過去の環境や将来の有人探査における資源としての可能性を探る上で非常に重要です。

RIMFAXの運用は、地球上の時間に合わせて行われます。火星の1日は地球のそれとほぼ同じ約24.5時間ですが、RIMFAXのデータ取得計画や機器の管理は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校（UCLA）とオスロ大学（UiO）の科学者チームが、およそ2週間ごとに交代しながら担当しています。取得された観測データは、NASAの惑星データシステム（PDS）に集約され、研究者や一般に公開されることになります。RIMFAXの主任研究者はFFIのスヴェイン・エリック・ハムラン氏であり、彼の国際的なチームにはノルウェー、カナダ、そして米国の科学者が参加しています。

名前の由来とテスト

RIMFAXという名前は、北欧神話に登場する馬「フリームファクシ（Hrímfaxi）」に由来しています。フリームファクシは夜明けに露をもたらすとされる馬で、その名前には「忠実に夜をもたらす」という意味があります。火星の地下深くを忠実に探査するRIMFAXの役割にふさわしい名前と言えるでしょう。

開発中、RIMFAXのエンジニアリングモデルは、地球上の様々な環境で広範なテストを受けました。特にノルウェー領スヴァールバル諸島や米国南西部のいくつかの場所で実地テストが行われ、異なる地質条件下での性能が評価されました。また、オープンソースの電磁シミュレーションツールであるgprMaxを用いたモデリングも行われ、実際の火星着陸地点での画像化能力が事前に評価されました。

火星の他のレーダー

火星の地下を探査するレーダーはRIMFAXだけではありません。過去または現在、火星を周回する探査機や他の着陸機にも、同様の目的を持つレーダー機器が搭載されています。例えば、マーズ・リコネッサンス・オービターに搭載されたSHARADや、マーズ・エクスプレスに搭載されたMARSISは、それぞれ異なる周波数帯で火星の深部や浅部構造を調べています。また、インサイト着陸機にはWISDOMというGPRが搭載され、着陸地点の浅い地下構造を探査しました。これらの機器は、RIMFAXと連携することで、火星の地下環境に関するより包括的な理解をもたらすことが期待されています。

RIMFAXが送ってくるデータは、火星の地史、特に過去に水が存在した可能性のある環境を理解するための重要な手がかりとなるでしょう。地下に眠る痕跡を画像化することで、火星が生命を育む可能性を持っていたのか、そして現在どのような資源が利用可能かを解き明かす一助となるのです。

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