S型星

S型星

S型星は、その名の通り、スペクトル分類においてSクラスに位置づけられる、比較的温度の低い晩期型の巨星です。これらの星の最も顕著な特徴は、通常のK型星やM型星のスペクトルで支配的な酸化チタン（TiO）バンドに加え、酸化ジルコニウム（ZrO）や酸化イットリウム（YO）といったs過程（slow neutron-capture process）元素の酸化物による強いスペクトルバンドを示す点にあります。さらに、テクネチウム（Tc）のような不安定なs過程元素の存在も確認されており、これは星の内部、特に漸近巨星分枝（AGB）段階において中性子捕獲反応が活発に起き、これらの元素が生成され対流によって星の表面に運ばれてきている（タートアップと呼ばれる現象）証拠とされています。また、ジシアン（CN）やリチウム（Li）のバンドが特徴的な場合もあります。

多くのS型星は、規則的または不規則な明るさの変化を示す変光星であり、特にミラの変光で知られる長周期変光星に分類されるものが多数を占めます。これは、星の巨大な外層が周期的に膨張・収縮する脈動によるものです。

S型星の起源については、大きく二つのタイプが考えられています。一つは、星自身の内部進化によって特殊な元素組成を獲得した「内因性S型星」です。かつては、漸近巨星分枝にあるM型巨星が、その進化の過程で炭素星（C型星）へと変貌する途中の段階にある星がS型星であるという説が有力視されていました。AGB星は、中心核の外側にある水素殻とヘリウム殻での核融合反応によってエネルギーを得ています。特に、ヘリウム殻での核融合が間欠的に活発化する「熱パルス」と呼ばれる期間には、星の内部でs過程元素が効率的に生成され、対流によって表層に輸送されると考えられています。

もう一つは、連星系における伴星からの物質移動によって、その特殊な元素組成を獲得した「外因性S型星」と呼ばれるタイプです。これらの星は、スペクトルが冷たいバリウム星に類似していることがあります。外因性S型星の場合、現在観測されているS型星自身が積極的にs過程元素を生成しているわけではありません。その代わりに、過去にこの星の伴星だった星（当時は炭素星であった可能性が高い）が自身の進化過程でs過程元素を生成し、その外層物質が現在のS型星に質量転移によって供給されたと考えられています。質量転移が起こった後、伴星は進化を続け、現在では検出が困難な高密度の白色矮星となっている場合が多く見られます。

物理的な外観としては、S型星は同じような表面温度を持つK型星やM型星と比較して、より赤みがかって見えるという特徴があります。これは、その特殊な大気組成が光の吸収・散乱に影響を与えるためと考えられます。

代表的なS型星としては、ミラ型変光星であり、最大光度時には肉眼でも明るく見える「はくちょう座χ星」が挙げられます。また、「おおぐま座S星」もよく知られたS型星です。外因性S型星の例としては、「HR 1105」などが知られています。

S型星の研究は、恒星内部での元素合成、特にs過程の理解、そして晩期型星や連星系の進化過程を解明する上で重要な手がかりを与えています。

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