SANJU サンジュ

『SANJU サンジュ』：波乱万丈なスターの真実を描く

2018年に公開されたインド映画『SANJU サンジュ』（原題：Sanju）は、ボリウッドで異彩を放つ俳優、サンジャイ・ダットの激動の人生を綴った伝記作品です。ラージクマール・ヒラーニが監督と脚本を手掛け、アビジャート・ジョーシーが共同脚本を担当しました。この映画は、サンジャイ・ダットが直面した薬物依存、1993年のボンベイ連続爆弾テロ事件に関連した逮捕、そして俳優としてのキャリアの転落と見事な復帰という、彼の人生における重要な出来事、特に父である名優スニール・ダットとの複雑な関係性に深く切り込んでいます。主演のランビール・カプールをはじめ、パレーシュ・ラーワル、ヴィッキー・コウシャル、マニーシャ・コイララ、ディア・ミルザら、豪華なキャストが集結しています。

製作背景：真実への探求

監督のラージクマール・ヒラーニが本作の製作を決意したきっかけは、サンジャイの妻マニヤタから語られた夫の意外なエピソードでした。その話に触発されたヒラーニは、サンジャイの半生を映画化することに強い関心を抱きます。タイトルの「Sanju」は、亡き母ナルギスがサンジャイを愛情込めて呼んだニックネームに由来しています。製作にあたり、ヒラーニはサンジャイ本人だけでなく、ジャーナリスト、警察官、親族、友人など、彼の人生に関わった多くの人々に取材を行い、多角的な証言を集めました。彼はサンジャイに対し、脚本や内容の変更要求を一切受け付けないという条件を提示し、サンジャイ自身も自身のイメージを美化しないという監督の意向を受け入れました。ヒラーニは、単なる英雄譚ではなく、誰も知らないサンジャイの姿、彼の欠陥も含めた真実を描き出すことを目指しました。特に、銃と麻薬という二つの大きな問題と向き合った彼の闘いを物語の中心に据え、父子の絆や友人関係といった人間ドラマに焦点を当てることを構想しました。

物語の核心：ウィニーが見た“サンジュ”

物語は、ボリウッドのスターとして知られるサンジュが、自身の伝記執筆を依頼した作家による原稿に憤慨する場面から始まります。それは彼の実像とかけ離れた、あまりにも美化された内容だったからです。その直後、サンジュはボンベイ連続爆弾テロ事件に関連した武器不法所持の罪で有罪判決を受け、収監されることが決定します。妻マニヤタは、夫が刑務所に入るまでの短い期間で、伝記作家ウィニーに彼の真実の姿を記してほしいと依頼します。最初は渋っていたウィニーですが、サンジュが自らの過去を正直に語ろうとする姿勢に触れ、取材を引き受けます。

サンジュの人生は、父スニール監督作での華々しい俳優デビューから幕を開けます。しかし、父からの過干渉に息苦しさを感じた彼は、悪友ズビンの影響で薬物の泥沼に足を踏み入れてしまいます。薬物と酒に溺れる日々は、恋人ルビーやその家族との関係を破壊し、さらに母ナルギスの病を知って依存は深まります。この頃、彼は親友となるカムレーシュとニューヨークで出会います。一度は薬物を断ち切りルビーとの復縁を試みますが、再び薬物に手を出し、関係は完全に破綻します。母の死後、サンジュは薬物依存克服のためアメリカのリハビリセンターへ向かい、苦闘の末、カムレーシュや父の支えを得て依存を克服します。

伝記の執筆を進めるウィニーは、ズビンからサンジュとカムレーシュが絶縁したと聞き、カムレーシュのもとを訪れます。そこで明かされたのは、依存克服後のサンジュの女性関係の乱れと、父スニールへの脅迫電話をきっかけにサンジュがAK-56を入手し、テロ事件に関与したと疑われた顛末でした。そして、保釈後のサンジュが父とテロ計画の関与を巡る会話を交わす場面を目撃し、カムレーシュが彼と距離を置くに至った経緯が語られます。真実を知ったウィニーは、テロリストの伝記は書けないと執筆を辞退します。

テロ容疑以降、ヒット作に恵まれず「過去の人」と見なされていたサンジュですが、父の勧めにより『ムンナー兄貴、医者になる』に主演し、俳優として見事に返り咲きます。父との共演は成功を収めますが、間もなくスニールは亡くなります。父の死後、テロ容疑は晴れたものの、武器不法所持で有罪となったサンジュは収監されます。メディアが彼をテロリストであるかのように報道する中、収監から1年後、ウィニーはサンジュのラジオ放送を聞き、再び彼と向き合うことを決めます。サンジュはラジオを通じ、父への汚名を避けるため、司法取引による偽証を拒否した真実を語り、カムレーシュとの和解を願います。刑期を終え釈放されたサンジュは、カムレーシュと再会し、ウィニーから完成した伝記を受け取ります。そのタイトルは、父スニールが好きだった歌にちなみ『Kuch Toh Log Kahenge（言わせておけ）』と名付けられていました。

キャストと徹底的な役作り

サンジャイ・ダット役には、監督が早い段階から第一候補として考えていたランビール・カプールがキャスティングされました。サンジャイの複雑な人生の各段階を演じるため、ランビールは物理的、精神的な変身に並々ならぬ努力を注ぎました。体型や顔つきをサンジャイに近づけるため、補綴やメイクに長時間をかけ、特別な食事やトレーニングを敢行。さらに、キャラクターの内面を深く理解するため、サンジャイ本人と繰り返し対話を重ねました。他のキャスト陣も、パレーシュ・ラーワルが威厳と愛情を兼ね備えた父スニールを、ヴィッキー・コウシャルがサンジャイを支える架空の親友カムレーシュを、マニーシャ・コイララが病と闘う母ナルギスを、ディア・ミルザが献身的な妻マニヤタを、それぞれ見事に演じています。特にヴィッキー・コウシャルは、複数の友人の要素を統合したカムレーシュ役で、役作りのためにグジャラート人の特徴を学び、大幅な体型変化にも挑みました。アヌシュカ・シャルマ演じる伝記作家ウィニーは、監督自身と脚本家をモデルにした架空のキャラクターです。

批評と興行成績：賛否両論を越えた成功

公開後、『SANJU サンジュ』は批評家から賛否両論を巻き起こしました。主演ランビール・カプールの圧倒的な演技力と、ヒラーニ監督の手堅い演出は多くのメディアで絶賛されました。特に、サンジャイの欠陥や苦悩をリアルに表現したランビールの演技は高く評価されました。しかしその一方で、映画がサンジャイのイメージを不当に美化している、いわゆる「ホワイトウォッシング」であるという批判も一部から上がりました。監督自身は、麻薬依存や女性関係など、サンジャイの暗部もきちんと描いていると反論しています。

批評家たちの評価が分かれる中、本作は興行面で驚異的な成功を収めました。インド国内で公開初日から記録的なスタートを切り、公開わずか3日で10億ルピー、1週間以内に20億ルピーを突破するなど、次々と新記録を樹立しました。最終的な興行収入は58億ルピーを超え、2018年に公開されたインド映画の中で最も成功した作品となり、歴代のインド映画の中でも屈指のヒット作の仲間入りを果たしました。国内外の興行成績を塗り替え、ランビール・カプールにとっても初の30億ルピー突破主演作となりました。また、第64回フィルムフェア賞では7部門にノミネートされ、ランビール・カプールが主演男優賞、ヴィッキー・コウシャルが助演男優賞を受賞するなど、映画賞でも高い評価を得ました。賛否はあったものの、観客からの絶大な支持を得て、社会現象とも言える大ヒットを記録した作品となりました。

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