SGR 1806-20

SGR 1806-20

SGR 1806-20は、軟ガンマ線リピーターと呼ばれる天体の中でも特に活動的な、マグネターとして初めて発見された天体の一つです。地球から約5万光年の遠方に位置し、銀河系内では極めて強い磁場を持つ珍しいタイプの中性子星として知られています。

位置

SGR 1806-20は、地球から見て天の川銀河の中心を隔てた反対側、いて座の方向に約5万光年離れた場所にあります。この天体が存在するのは、星雲G10.0-0.3の中心部であり、特にC1 1806-20星団の一部として位置づけられています。このC1 1806-20星団は、銀河系内で最大規模を誇る電離水素領域（HII領域）に含まれており、その内部には非常に珍しい恒星がいくつか含まれています。例えば、既知の恒星の中で最も明るいとされる高光度青色変光星（LBV）であるLBV 1806-20や、炭素が豊富なWC9d型やWCL型のウォルフ・ライエ星などが観測されています。

発見と研究の歴史

SGR 1806-20の存在は、最初に1979年1月7日に発生したガンマ線放射を伴う天体（記録符号GB970107）として検出されました。その後、1986年には繰り返しガンマ線を放出する軟ガンマ線リピーターの候補天体として認識されるようになり、1987年にSGR 1806-20という名称が与えられました。1993年には、電波望遠鏡による観測から、この天体が超新星爆発の残骸の中に位置していることが確認され、中性子星であることが明らかになりました。しかし、当時はなぜこのような天体がガンマ線を繰り返し放出するのか、そのメカニズムは不明でした。

研究が進むにつれて、1998年にはこの天体が非常に強力な磁場を持つパルサーであることが判明します。この発見は、軟ガンマ線リピーターという現象が、特に強い磁場を持つ中性子星、すなわちマグネターによって引き起こされるという理論を裏付ける重要な証拠となりました。一時、1995年には近傍の超高光度星LBV 1806-20の伴星である可能性が示唆されましたが、この可能性はその後の観測によって2002年に否定されています。

物理的性質

SGR 1806-20は、直径がおよそ34kmという非常にコンパクトな中性子星です。約7.56秒という周期で自転するパルサーとしても観測されており、X線観測におけるパルサー名はPSR J1808-2024です。表面の自転速度は最大で秒速約14.5kmに達します。この天体の特徴として、他の多くのパルサーと比較して自転の減速が異常に速いことが挙げられます。これは、この天体が持つ極めて強力な磁場によるものと考えられています。

SGR 1806-20は、その名の通りマグネターであり、約8 × 10^10テスラ（T）という驚異的に強大な磁場を持っています。この磁場の強さは、地球の磁場の約2000兆倍に相当し、一般的なパルサーの磁場を100万倍以上も凌駕します。特に1998年時点では、既知のマグネターの中で最も強力な磁場を持つ天体として記録されました。このようなマグネターは銀河系内には数個程度しか存在しないとされており、非常に希少な存在です。また、この天体が位置する超新星残骸の年齢が約1万年と推定されていることから、個々のマグネターが軟ガンマ線リピーターとして活発な活動を示す期間は、その天体の一生全体に比べて比較的短いと考えられています。

爆発現象（星震）

軟ガンマ線リピーターは、主に二種類のガンマ線放射を放出します。一つは1秒未満の短いガンマ線フレア、もう一つは数秒の周期性を持ちながら数十秒から時には400秒近く持続する、パルサー起源の長期的なガンマ線信号です。短いフレアは超新星爆発と見間違われることもありますが、SGR 1806-20のような典型的な軟ガンマ線リピーターは、その後の長い信号を伴うことで区別されます。

SGR 1806-20は、このタイプの天体が起こす極めて大規模な爆発現象で最もよく知られています。特に2004年12月27日には、この天体で発生した史上最大級とされる大爆発に伴い、莫大な量のガンマ線が地球に到達しました。地球で観測されたガンマ線のエネルギーは150～200キロ電子ボルト（keV）に達し、地球大気の上層部、特に電離層に衝突して広範囲にわたるイオン化を引き起こしました。この極限的な爆発現象は「星震（starquake）」と呼ばれ、内部の超強力な磁場によって中性子星の地殻が歪められ、一部または全球面で破壊されることによって発生すると考えられています。

この星震によって放出された総エネルギーは、マグニチュード23.1に相当し、換算すると約3.0 × 10^39ジュールという途方もない量に達すると推定されています。これは、我々の銀河系内で観測された天体イベントとしては、1604年の超新星爆発SN 1604以来となる、極めて高エネルギーの出来事でした。この爆発によるガンマ線フレアは6分20秒もの長時間にわたって観測され、特に最初のわずか0.2秒間に放出されたエネルギーは、太陽が約25万年かけて放出する総エネルギーに匹敵すると推定されています。その瞬間的な明るさは、太陽の約40兆倍、絶対等級にして-29.2等級という、宇宙で最も明るい現象の一つとなりました。

もし仮に、このような星震が地球からわずか3光年以内という近い距離で発生した場合、その強烈な放射線によって地球のオゾン層は完全に破壊され、地表のどこであっても約7.5km離れた場所で12キロトン（約50兆ジュール、広島型原爆と同程度のエネルギー）の核爆発が発生したのと同等の壊滅的な影響が出ると予測されています。幸いなことに、現在知られている中で地球に最も近いマグネターでも、りゅうこつ座方向にある1E 1048.1-5937で約9000光年離れており、このような直接的な脅威はありません。

SGR 1806-20は、マグネターの極限的な物理環境とその爆発現象を理解する上で、非常に重要な研究対象となっています。

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