SH3ドメイン

SH3（Src homology 3）ドメインは、生命科学分野で広く研究されているタンパク質機能単位の一つです。およそ60個のアミノ酸から構成される比較的小型のモジュールであり、細胞内シグナル伝達において重要な役割を担います。

発見と存在

このドメインは、もともとウイルス性のアダプタータンパク質v-Crkにおいて特徴的な保存配列として初めて記載されました。その後、SrcやAblといった細胞質に存在するチロシンキナーゼ、あるいはホスホリパーゼなど、多様なタンパク質にも存在することが明らかになりました。さらに、PI3キナーゼ、RasGAP、CDC24、CDC25といった他のタンパク質ファミリーからもSH3ドメインが同定されています。

SH3ドメインを持つタンパク質は、細胞の骨格構造、Rasタンパク質による情報伝達、Srcキナーゼを介した細胞応答など、様々な細胞機能の調節に関わるシグナル伝達経路に関与しています。これらのタンパク質は、自身に存在するSH3ドメインを介して、アダプタータンパク質や特定のチロシンキナーゼと相互作用します。チロシンキナーゼとの結合においては、通常、キナーゼの活性部位から離れた場所に位置することが知られています。ヒトゲノムにコードされているタンパク質の中には、約300個ものSH3ドメインが見つかっており、その機能的な重要性が示唆されています。

主な役割としては、シグナル伝達経路における特定のタンパク質同士の結合を仲介したり、細胞質内での複雑なタンパク質間ネットワークの形成や調節に関与したりすることが挙げられます。

構造的特徴

SH3ドメインは、特徴的なβバレル構造を形成しています。この構造は、逆平行のβシートとして強固にパッキングされた5本または6本のβストランドから成り立ちます。ドメイン内のリンカー領域には、短いヘリックス構造が含まれる場合もあります。SH3のフォールド構造は、真核生物だけでなく原核生物にも見られることから、進化的に非常に古い起源を持つと考えられています。

ペプチドとの結合

典型的なSH3ドメインは、他のタンパク質と連携して働くタンパク質によく見られ、特定のタンパク質複合体の形成を促進する役割を果たします。SH3ドメインが結合する相手として最も一般的であるのは、結合パートナータンパク質中のプロリンを多く含むペプチド配列です。ヒトにおいては、典型的なSH3ドメインを持つタンパク質は主に細胞内に局在しますが、MIAファミリーのような細胞外タンパク質にもSH3に類似したフォールド構造が見られます。

SH3ドメインが認識し結合するペプチドには、特定のコンセンサス配列、すなわちショート・リニア・モチーフが存在します。よく知られている代表的なモチーフの一つは、以下の正規表現で表されます。

`-X-P-p-X-P-`

ここで、1番目と4番目のアミノ酸は脂肪族アミノ酸であり、2番目と5番目は必ずプロリン、そして3番目もしばしばプロリンです。このような配列は、SH3ドメインの疎水的な結合ポケットにはまり込むように結合します。これとは別に、R-x-x-Kというコンセンサスモチーフに結合するSH3ドメインも報告されています。近年の多様な分子生物学的研究の進展に伴い、新たなSH3結合モチーフが続々と発見されており、このドメインの機能的な柔軟性と多様性が強く示されています。

SH3インタラクトーム

SH3ドメインを介したタンパク質間相互作用のネットワーク全体（SH3インタラクトームと呼ばれます）の解析からは、生物種間で興味深いパターンが見出されています。例えば、線虫のSH3ドメインを持つタンパク質は、酵母と同様に、細胞が外部から物質を取り込むエンドサイトーシスに関わるタンパク質に多く存在することが示されています。これは種を超えた機能的な類似性を示す例です。しかしながら、個々のオルソログ（同じ祖先遺伝子から派生した遺伝子にコードされるタンパク質）のレベルで見ると、線虫と酵母の間では、SH3ドメインが結合するタンパク質の組み合わせが大きく異なっており、進化の過程でタンパク質間相互作用ネットワークが高度に再編成されたことが示唆されています。

SH3ドメインを持つ代表的なタンパク質

以下に、SH3ドメインを持つことが知られているタンパク質の例を挙げます（一部）。

シグナル伝達アダプタータンパク質（GRB2, Vavなど）
CDC24, CDC25
PI3キナーゼ
ホスホリパーゼ
RasGAP
S6K2
SHANK1, SHANK2, SHANK3
YAP1
ミオシンの一部
その他多数

SH3ドメインは、細胞内の様々なシグナル伝達経路において、タンパク質の局在、複合体形成、機能調節に不可欠な役割を果たす、極めて重要なタンパク質モジュールです。

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