ホスホリパーゼ

ホスホリパーゼとは

ホスホリパーゼ（phospholipase）は、リン脂質を加水分解する酵素群の総称です。リン脂質は細胞膜の主要な構成要素であり、生体内で様々な役割を担っています。ホスホリパーゼは、これらのリン脂質の特定部位を加水分解することにより、細胞機能の調節、シグナル伝達、脂質の代謝など、多様な生理プロセスに関わっています。

ホスホリパーゼの分類

ホスホリパーゼは、加水分解する部位の違いによって、大きくA、B、C、Dの4種類に分類されます。

ホスホリパーゼA (Phospholipase A)
ホスホリパーゼA1 (Phospholipase A1): リン脂質のsn-1位のアシル基を切断します。
ホスホリパーゼA2 (Phospholipase A2): リン脂質のsn-2位のアシル基を切断し、アラキドン酸を生成します。アラキドン酸は炎症反応や免疫応答に関わる重要な物質です。特にホスホリパーゼA2は、レシチン分子の2位の脂肪酸エステル結合を加水分解し、脂肪酸とリゾレシチンを生成します。また、ヘビ毒やハチ毒の主要成分でもあり、哺乳類では膵液中に存在し消化酵素として働きます。

ホスホリパーゼB (Phospholipase B)
リン脂質のsn-1位とsn-2位の両方のアシル基を切断します。リゾホスホリパーゼとも呼ばれます。

ホスホリパーゼC (Phospholipase C)
リン酸ジエステル結合（グリセロールとの間）を切断し、ジアシルグリセロールとリン酸基を有する頭部を生成します。PLCはセカンドメッセンジャーであるジアシルグリセロールとイノシトールトリスリン酸を放出し、細胞内シグナル伝達において重要な役割を果たします。

ホスホリパーゼD (Phospholipase D)
リン酸エステル結合を切断し、ホスファチジン酸 (phosphatidic acid) とアルコールを生成します。C型とD型はホスホジエステラーゼに分類されます。

各ホスホリパーゼの機能

各ホスホリパーゼは、それぞれ異なる反応を触媒し、異なる生理的役割を果たします。

ホスホリパーゼA2: 炎症メディエーターであるアラキドン酸の生成に関与し、炎症反応、免疫応答、細胞膜の修復などに関わります。
ホスホリパーゼC: 細胞内シグナル伝達に関与し、細胞の増殖、分化、アポトーシスなどの調節に重要な役割を果たします。ジアシルグリセロール（DAG）とイノシトールトリスリン酸（IP3）は、それぞれ異なるシグナル経路を活性化します。
ホスホリパーゼD: 細胞膜のダイナミクスや細胞骨格の調節、小胞輸送など、多様な細胞機能に関与します。

関連用語

レシチン: リン脂質の一種で、細胞膜の構成成分です。
リゾレシチン: レシチンから脂肪酸が一つ取り除かれた化合物です。
アラキドン酸: 炎症メディエーターやシグナル伝達物質の前駆体です。
ジアシルグリセロール（DAG): 細胞内シグナル伝達に関わるセカンドメッセンジャーです。
イノシトールトリスリン酸（IP3): 細胞内シグナル伝達に関わるセカンドメッセンジャーです。
ホスファチジン酸: 細胞膜のリン脂質で、様々な細胞機能に関与しています。

ホスホリパーゼに関する補足

ホスホリパーゼは、細胞の生理機能を理解する上で非常に重要な酵素群です。これらの酵素の活性を制御することで、様々な疾患の治療法開発に繋がると期待されています。

脚注

en:Patatin-like phospholipase
en:Infantile neuroaxonal dystrophy

外部リンク

Phospholipases - MeSH・アメリカ国立医学図書館・生命科学用語シソーラス（英語）
Phospholipase Signaling Pathway

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