SIREN (漫画)

夭折した恋人への復讐――モータージャーナリストの悲劇

村上もとか氏による漫画作品『SIREN』（セイレン）は、1991年に小学館よりヤングサンデーコミックスとして刊行された全1巻の短編漫画です。タイトルの『SIREN』はギリシャ神話に登場するセイレーンに由来しており、物語全体を覆う謎めいた雰囲気と、主人公の心の闇を象徴しています。

主人公は、日本初の女性F3ドライバーであり、現在はモータージャーナリストとして活躍する椎名ひとみ。5年前、彼女は愛する恋人・間宮邦彦を交通事故で失いました。邦彦は日本人3人目となるF1ドライバー候補として期待されていた有望なレーサーでしたが、箱根スカイラインで謎のドライバーとの競争中に事故に遭い、帰らぬ人となったのです。

邦彦の事故から5年後、ひとみは愛車であるアルファロメオ・スパイダーで箱根スカイラインを走ります。そこで、彼女を煽り、危険な運転をする黒いポルシェ・928S4と遭遇します。そのポルシェのボディには、タイトルにもなっているセイレーンのエンブレムが描かれていました。激しい競争の末、ひとみはポルシェに敗北を喫します。しかし、このポルシェこそが、5年前、恋人を死へと追いやった車だったのです。

復讐の念に駆られたひとみは、幼なじみで大手興信所に勤める金田康子に協力を求めます。金田はポルシェのナンバープレートを手がかりに、持ち主の調査を開始。調査の結果、ポルシェの持ち主は影佐亮という人物であることが判明します。影佐はかつてプロレーサーとして活躍していましたが、麻薬所持で逮捕され、レース界から永久追放された過去を持っていました。しかし、驚くべきことに、影佐は5年前、このポルシェ・928S4に乗車中に事故で亡くなっていたのです。

物語は、邦彦の死の真相と、影佐の関与、そして、復讐の炎に燃えるひとみの葛藤を描きながら、スピード感あふれる展開を見せていきます。箱根スカイラインという独特の舞台設定と、ギリシャ神話からの引用、そして、主人公の強い意志と悲しみは、読者に深い印象を与えます。全1巻という短いながらも、濃密な物語は、多くの読者を魅了し続けることでしょう。

この作品は、単なるレーシング漫画にとどまらず、失われた愛と、復讐、そして、過ぎ去った時間に対する人間の心の葛藤を繊細に描いた、珠玉の短編漫画として高く評価されています。 レーシングシーンの臨場感あふれる描写と、登場人物たちの複雑な感情の揺れ動きは、読者に強い共感と感動を与え、忘れられない作品として記憶に残るでしょう。

【書誌情報】

タイトル：SIREN（セイレン）
作者：村上もとか
出版社：小学館
レーベル：ヤングサンデーコミックス
巻数：全1巻
発行日：1991年3月
* ISBN：4-09-151241-0

もう一度検索