STAY DREAM

長渕剛9枚目のアルバム『STAY DREAM』：どん底からの創造と新たな境地

1986年10月22日、長渕剛の9枚目のスタジオアルバム『STAY DREAM』がリリースされました。前作から約1年2ヶ月ぶりとなる本作は、長渕自身による作詞・作曲・プロデュースで全11曲を収録。特に表題曲「STAY DREAM」は、過酷な状況の中で生まれた、彼の魂の叫びと言えるでしょう。

どん底からの創造：過労、人間関係、そして母の病

アルバム制作の背景には、過酷な現実がありました。1985～86年の全国ツアーでは、高熱を出しながらもステージに立ち続け、ツアー後半は過労で中断。多忙による精神的負担や人間関係の悪化は、長渕を追い込み、曲作りの行き詰まりへと導きます。何を書いても自分の納得がいかず、周囲からの制作の要請を拒否したことで、関係者との距離も生まれていきました。

行き詰まった長渕は、尊敬する吉田拓郎に相談。しかし返ってきた言葉は「たかが曲だろ！」という意外なものでした。この出来事に、長渕は大きな衝撃を受けます。さらに、母親の大腸がん宣告という悲報も彼を襲います。母親は闘病の末、認知症の症状も現れ始めます。

様々な困難が重なった長渕は、故郷である鹿児島へ帰郷。桜島を眺めながら、自分自身への問いかけと、再起への誓いを立て、再び東京に戻りました。

音楽性：アコースティックギター中心の新たなスタイル

本作では、前作までのバンドサウンドとは一転。アコースティックギターやピアノ弾き語りを中心とした、シンプルなサウンドに変化が見られます。この変化は、長渕自身の精神状態や経験を反映したものであり、彼の音楽性の新たな一面を示すものとなりました。

レコーディングはほぼ一発録りで行われ、その生々しさは、完成後、長渕自身を戸惑わせるほどでした。しかし、友人の甲斐よしひろから「いいよこれ。頼むから出してくれよ」と力強い言葉をもらったことで、彼はアルバムのリリースを決意します。

音楽雑誌『別冊カドカワ 総力特集 長渕剛』では、「サウンド的にも、ロックのイディオムから自らを開放している」、「歌詞的にも、流行歌の呪縛から解き放たれている」と評され、長渕の音楽性の進化が認められました。

主題歌「SUPER STAR」とドラマ『親子ゲーム』

本作には、TBS系テレビドラマ『親子ゲーム』の主題歌として先行リリースされたシングル「SUPER STAR」が収録されています。このドラマは、長渕自身が「俺じゃなきゃ出来ないドラマ」とテレビ局に提案したもので、彼は主演を務め、後に妻となる女優・志穂美悦子と初共演を果たしました。

アルバムリリースとその後

『STAY DREAM』は、レコード、カセットテープ、CDの3形態でリリースされ、オリコンチャート最高位3位を記録しました。2006年には、24ビット・デジタルリマスター版が発売されました。また、本作を基に、センターステージ、生ギター一本というスタイルの全国ツアー「LIVE'86 - '87 STAY DREAM」も開催されました。

収録曲：それぞれの楽曲に込められた葛藤と決意

アルバムには、「レース」「だん・だん・だん」「風来坊」「俺たちのキャスティング・ミス」「HELLO 悲しみよ!」「少し気になったBREAKFAST」「YOU CHANGED YOUR MIND」「わがまま・友情 DREAM & MONEY」「ひとりぼっちかい?」「SUPER STAR」「STAY DREAM」が収録されています。それぞれの楽曲には、長渕が経験した苦悩や葛藤、そしてそこから生まれた希望が表現されています。

例えば「レース」は入院中に書き上げた曲で、サビでは自らを卑下する歌詞が印象的です。「STAY DREAM」は、自殺を考えたほどのどん底から生まれた曲であり、彼の復活を象徴する楽曲となっています。

まとめ：長渕剛の新たな出発点

『STAY DREAM』は、長渕剛にとって、過酷な経験を乗り越え、新たな音楽性を確立した重要な作品です。アコースティックギター中心のシンプルなサウンド、そして彼の心の内を赤裸々に表現した歌詞は、多くのリスナーの共感を呼びました。このアルバムは、彼にとって「アーティストへの本当の入り口」であり、その後も続く彼の音楽活動の原点とも言えるでしょう。

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