T's BALLAD

角松敏生のバラード・ベストアルバム『T's BALLAD』：1985年の悲劇と音楽の共鳴

1985年11月21日、角松敏生初のバラード・ベストアルバム『T's BALLAD』（ティーズ・バラッド）がリリースされました。このアルバムは、角松敏生がそれまでに発表した『SEA BREEZE』から『GOLD DIGGER〜with true love〜』までの5枚のオリジナルアルバムの中から厳選されたバラード楽曲で構成されています。しかし、『T's BALLAD』の真価は、選曲だけではありません。同年8月12日に発生した日本航空123便墜落事故への追悼の意を込めて書き下ろされた2曲、「RAMP IN」と「SONG FOR YOU」が収録されている点に、このアルバムの大きな意義があります。

「RAMP IN」はJAL123便の客室乗務員へ、「SONG FOR YOU」は同便の乗客の魂へ、それぞれ捧げられた楽曲です。アルバムのライナーノーツにも、この2曲が事故の犠牲者への鎮魂歌であることが明確に記されています。特に「RAMP IN」は、後にベストアルバム『1981-1987』にもリテイクバージョンが収録されるなど、角松敏生の代表曲の一つとして長く愛され続けています。これらの楽曲は、単なる音楽作品を超えた、社会的な出来事と深く結びついた作品として、リスナーの心に深く刻まれています。

アルバムの収録曲は、角松敏生自身の楽曲が中心ですが、吉田美奈子が作詞・作曲・編曲を手掛けた「OVERTURE」も収録。吉田美奈子はアルバム全体を通してコーラスアレンジにも参加し、角松敏生と深い音楽的繋がりを示しています。また、他の楽曲にも、後藤次利、志熊研三、TOM TOM 84、数原晋、大谷和夫、佐藤準といった、当時日本の音楽シーンを牽引していた数々の著名なミュージシャンが参加しており、その豪華な布陣にも注目が集まりました。

LPレコード版に加えて、2ヶ月後にリリースされたCD版には、12インチ・シングル「DO YOU WANNA DANCE」に収録されていた国分友里恵とのデュエット曲「IT'S HARD TO SAY GOOD-BYE」が追加収録され、さらに充実した内容となっています。CD版では、各楽曲の演奏時間、参加ミュージシャン、そしてスタッフクレジットが詳細に記されており、制作過程への深い理解を促す構成となっています。

『T's BALLAD』は、角松敏生の音楽性と、1985年という時代背景が複雑に絡み合った、非常に重要な作品と言えるでしょう。選曲されたバラードの数々は、角松敏生の音楽的才能を余すことなく示すと同時に、日航123便墜落事故という悲劇を乗り越えようとする、社会全体を包んでいた静かで深い感情を映し出していると言えるのではないでしょうか。多くのミュージシャン、スタッフの協力によって完成したこのアルバムは、音楽史に名を残す名盤として、これからも多くの人々に愛され続けることでしょう。

主な参加ミュージシャン:

吉田美奈子 (コーラスアレンジ、作詞作曲編曲)
後藤次利 (編曲)
志熊研三 (編曲)
TOM TOM 84 (編曲)
数原晋 (ブラス編曲)
大谷和夫 (ストリングス編曲)
佐藤準 (ストリングス、ブラス編曲)
PONTA (ドラムス)
青木智仁 (ベース)
幾見雅博 (ギター)
渋谷毅 (ピアノ)
林ユゾウ、友成好弘 (シンセサイザー)

そして、数多くのコーラス隊、ストリングス隊、ブラス隊のミュージシャン、そしてレコーディングエンジニア、スタッフ、そして角松敏生を支えた多くの人々によって、このアルバムは完成しました。彼らの献身的な努力によって、この忘れられないアルバムが誕生したのです。

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