T3100

東芝T3100：80年代を代表するポータブルパソコン

1986年1月、東芝は英国で開催されたウィッチ・コンピューター・ショウにおいて、画期的なラップトップパソコン「T3100」を発表しました。このマシンは、ヨーロッパとアメリカ市場をターゲットに販売され、日本では漢字ROMを搭載した「J-3100」として発売されました。

ハードウェア：当時としては最先端の技術

T3100は、前年に発売された東芝のT1100の後継機として登場しました。最大の特徴は、当時としては高性能であった8MHzのIntel 80286 CPUと、10MBのハードディスクドライブを搭載していた点です。さらに、640x400ピクセルの解像度を誇る9.6インチのガスプラズマディスプレイを搭載していました。この解像度は、オリベッティ・AT&T 6300グラフィックと互換性があり、当時としては非常に高精細なものでした。

拡張性にも優れており、独自の拡張スロットを1つ備えていました。また、別売の拡張ユニットを使用することで、最大5枚の8ビットISAカードを増設することが可能でした。この拡張ユニットを利用することで、1200bpsまたは2400bpsのモデム、イーサネットカード、さらに最大2.6MBまで増設可能なメモリカードなどを接続できました。ただし、最終モデルを除くほとんどの機種は外部電源が必要であったため、真のポータブル性には欠けていました。

T3100シリーズには、いくつかのモデルが存在しました。主なモデルとして、ハードディスク容量を20MBに増強した「T3100/20」、CPUクロック周波数を12MHzに向上させ、メモリ容量を1MB、ハードディスク容量を20MBとした「T3100e」、さらにハードディスク容量を40MBに増強した「T3100e/40」、そして16MHzのi386SX CPUと40MBまたは80MBのハードディスク、そして充電式バッテリーを搭載し、真のポータブル性を実現した「T3100SX」などが挙げられます。

開発：液晶ディスプレイではなくプラズマディスプレイを採用

当時の液晶ディスプレイは、応答速度に課題があったため、T3100ではガスプラズマディスプレイが採用されました。ディスプレイの製造は、コスト面で優位性があった松下電子工業が担当しました。また、ハードディスクドライブは、当時5インチが主流であった中、3.5インチハードディスクの開発に積極的であった日本ビクターの製品が採用されました。量産にあたっては、高密度実装技術が求められ、東芝生産技術研究所において新たな機械が開発されました。

評価：高い性能とポータビリティが評価され、高い市場シェアを獲得

T3100は、デスクトップパソコンであるIBM PC/AT (80286 6/8MHz) を上回る性能を、コンパクトな筐体で実現しました。この高い性能とポータビリティが評価され、PC Magazine誌において「Technical Excellence賞（ポータブルコンピュータ部門）」を受賞、Byte誌からは「The king of Laptop」と称されました。その結果、東芝は1987年のヨーロッパにおけるポータブルPC市場において、約13万台という市場規模の中で40%ものシェアを獲得しました。この海外市場での高い評価は、日本国内においてもJ-3100の販売促進に大きく貢献しました。

T3100の技術的遺産

T3100は、その高い性能とポータビリティによって、ラップトップパソコン市場に大きな影響を与えました。その成功は、東芝がその後もポータブルパソコン市場において積極的な姿勢を維持する上で重要な役割を果たしました。また、T3100の開発過程で培われた技術は、後の東芝製ノートパソコンの開発にも活かされていったと考えられます。T3100は、単なる一台のパソコンではなく、後のモバイルコンピューティングの発展に貢献した重要な製品と言えるでしょう。

もう一度検索