Taligent

Taligent：野心的な次世代OSプロジェクトの軌跡

1992年、Apple ComputerとIBMというIT業界の巨人2社は、共同でTaligent社を設立しました。その目的は、当時最先端技術であったオブジェクト指向に基づく、次世代オペレーティングシステム（OS）の開発でした。これは、1991年に締結された両社の包括的提携における重要な取り組みの1つでした。1994年にはヒューレット・パッカードも資本参加し、プロジェクトへの期待の高さが伺えます。

Taligentプロジェクトは、Apple社内で進められていた次世代OS「Pink」プロジェクトを引き継ぐ形でスタートしました。PowerPCを搭載したオープンアーキテクチャ（PReP、後にCHRP）マシン、そしてKaleida、ScriptXといった次世代開発環境と連携し、AIM連合（Apple、IBM、Motorolaの3社連合）の次世代コンピューティング環境の中核となることを目指していました。

Taligent OSは、徹底的にオブジェクト指向設計されたOSでした。マイクロカーネルを採用することで、PowerPCやIntelなど複数のCPUアーキテクチャへの対応を可能にする計画でした。さらに、AIX、OS/2、Windows NT、Mac OSといった既存OSとの互換性も確保する設計で、マイクロカーネル上に各OSのエミュレーション環境（パーソナリティ）を提供する構想でした。IBM Workplace OS上でも稼働するパーソナリティの1つとして位置付けられていたこともありました。

しかし、Taligent OSの開発は難航しました。当初の壮大なビジョンを実現するには、技術的な課題が多すぎたのです。そのため、開発の方向転換が図られ、Taligent OSから、より現実的なフレームワークであるCommonPointの開発にシフトしました。CommonPointはC++で開発され、AIX、HP-UX、OS/2、Windows NTに対応するプラットフォーム非依存性を重視した設計でした。1994年に発表されたCommonPointは、Taligent社の新たな柱として期待されましたが、市場での成功には至りませんでした。

1996年、Taligent社はIBMに吸収合併されました。これにより、Taligent OSおよびCommonPointプロジェクトは事実上終了しました。IBMは1997年にCommonPointの販売を終了しました。しかし、Taligentの技術的遺産は完全に消えたわけではありません。Taligentで開発されたフレームワークの一部は、IBMオープンクラスライブラリ(IOCL)や、Java Development Kit (JDK)の国際化対応部分などに受け継がれ、その後も世界中の多くのシステムで使用され続けています。

Taligentプロジェクトは、壮大なビジョンと高度な技術力をもって挑んだものの、市場のニーズや技術的な現実との間にギャップがあり、成功に至らなかった例として、IT業界の歴史に刻まれています。しかし、その挑戦と技術的貢献は、後のソフトウェア開発に大きな影響を与えたことは間違いありません。Taligentの失敗から学ぶべき点は多く、現代のソフトウェア開発においても参考となる事例と言えるでしょう。

関連事項:

OPENSTEP
macOS
AIM連合
IBM Workplace OS

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