Tera-hertz Explorer

TEREX（Tera-hertz Explorer）は、日本の情報通信研究機構（NICT）、東京大学、大阪府立大学といった研究機関が連携し、開発を進めている革新的な火星探査計画です。このプロジェクトの主目的は、超小型探査機を用いて、テラヘルツ帯の電磁波を利用して火星大気の詳細な観測を行うことにあります。従来の大型探査機とは一線を画す、極めてコンパクトな設計が最大の特徴です。

火星大気の組成や変動は、惑星の気候変動や過去の環境、さらには生命の存在可能性を探る上で極めて重要な情報源となります。特に、大気中の微量成分である水蒸気や酸素といった分子の振る舞いを精密に捉えることは、現在の火星がどのように変化してきたのか、将来どのように変化しうるのかを理解する鍵となります。TEREX計画では、これらの成分をテラヘルツ波という特定の波長帯で観測することで、より高精度なデータ取得を目指しています。テラヘルツ波は、特定の分子に固有の吸収・放出特性を示すため、大気成分を高感度かつ選択的に検出するのに適しているとされています。

TEREX計画は、二つの異なる役割を持つ探査機で構成されています。一つは火星への着陸を目指すTEREX-1着陸機、もう一つは火星を周回しながら観測を行うTEREX-2周回機です。TEREX-1は、火星大気圏への突入・降下時にエアロシェルを展開して機体を保護し、軟着陸を試みる計画でした。火星表面またはその近傍から大気観測を行うことで、地表近くのデータを取得することが期待されていました。一方、TEREX-2は火星軌道上から広範囲にわたる大気観測を担当し、着陸機とは異なる視点から火星大気のグローバルな状況を把握することを目指しています。これら二つのミッションを連携させることで、火星大気を立体的に理解することを構想しています。TEREX-2は、TEREX-1の打ち上げから約2年後に軌道投入される計画とされていました。

TEREXの設計思想の根幹にあるのは「超小型化」です。具体的には、機体体積をわずか50立方センチメートル、重量を8キログラム以下に抑えるという極めて挑戦的な目標が掲げられています。これは、限られた予算や打ち上げ機会の中で、柔軟かつ迅速に惑星探査を実現するための一つのアプローチです。このような小型化を実現するために、設計には民生用の技術や部品を積極的に活用する「商用オフザシェルフ（COTS）」と呼ばれる手法が多用される予定です。これにより、開発コストの削減と開発期間の短縮を図りながらも、必要な性能を確保することを目指しています。超小型衛星技術の発展は著しく、これを惑星探査に応用する試みとして、TEREXは注目されています。

TEREX計画の当初の打ち上げスケジュールは、2018年時点ではTEREX-1が2022年、TEREX-2が2024年と予定されていました。しかし、TEREX-1の当初予定であった2022年を超過した2023年以降においても、プロジェクトの具体的な打ち上げ時期については公表されていません。惑星探査ミッションは、技術的な課題や予算の確保、国際的な調整など、様々な要因によって計画が見直されることが少なくありません。TEREX計画も、現在進行中の開発状況や今後の状況に応じて、新たな打ち上げ機会を模索している段階にあると推測されます。計画の進展については、今後の発表が待たれるところです。

TEREXは、日本の惑星探査プログラムであるPLANET計画の一環として位置づけられています。過去の「のぞみ」探査機など、日本の火星探査の経験を活かしつつ、小型・低コストでの実現を目指す新たなアプローチと言えます。超小型衛星技術を活用した惑星探査は、これからの宇宙探査の新たな潮流となる可能性を秘めており、TEREX計画はその先駆的な取り組みの一つとして国内外から注目されています。テラヘルツ波という独自の観測手法と、超小型という機体設計を組み合わせることで、火星大気研究に新たな知見をもたらすことが期待されています。計画の実現に向けて、今後の開発の進展が引き続き注目されます。

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