Ultrix

Ultrix: DECが開発したUNIX系OS

Ultrix（正式名称: ULTRIX）は、ディジタル・イクイップメント・コーポレーション（DEC）が開発したUNIX オペレーティングシステムのブランド名です。ラテン語で「復讐者」を意味するこの名前は、単に語呂の良さから選ばれたとされています。

Ultrix誕生の背景

UNIXの初期開発は、DECのPDP-7やPDP-11システム上で行われました。その後、VAXシステムもUNIXのプラットフォームとして普及しましたが、DEC自身は独自のオペレーティングシステムVMSを優先していました。しかし、DEC内部にUNIXを導入しようとする動きが起こり、Bill MunsonがUnix Engineering Group (UEG) を立ち上げました。UEGの初期メンバーには、Jerry Brenner、Fred Canter、Bill Shannon、Armando Stettnerなどがいました。

BSDとの関わり

UEGは、初期にVersion 7 Unixの修正版であるV7Mをリリースしました。その後、ShannonとStettnerは、カリフォルニア大学バークレー校の4BSD開発グループと連携するようになり、ビル・ジョイも加わって、DECのシステム上でBSDを動作させるための開発を進めました。彼らは、CPU周りやドライバのサポートを担当し、DECの様々なシステム構成でテストを重ねました。UEGのマシンで新しいUNIXが動作した際、VMS開発者からは特に反応がなかったという逸話も残っています。

UEGは、4.1BSDの開発にも貢献し、その成果は後のUltrixの基礎となりました。この頃、UEGのメインマシン「decvax」は、UUCPとUsenetネットワークの主要ノードとして機能し、東西海岸間の電子メールとネットニュースのリアルタイム接続を実現しました。さらに、ヨーロッパやオーストラリアにも接続範囲を拡大しました。

Ultrixの誕生

Armando Stettnerは、DECがVAX用UNIXを顧客にリリースすべきだと提案し、Bill Munsonを通じてケン・オルセンに伝えられました。オルセンは、Stettnerが作ったUNIXのライセンスプレート（ナンバープレート状のプレート）を見て、「やろう」と言ったとされています。これにより、Ultrixの開発が正式に開始されました。

Ultrixの特徴

最初のUltrix-32は、4.2BSDをベースにSystem Vの機能を取り込み、1984年にリリースされました。これにより、DEC自身がVAX用UNIXをサポートすることが可能になりました。Ultrix-32は、DECnetやDEC LATなどのDEC独自のプロトコルもサポートしましたが、コンピュータ・クラスターはサポートしませんでした。その後、V7Mをベースとした製品も提供されました。ライセンスの関係で、バイナリのみの配布となったため、様々な構成に対応できるように、柔軟な設定機能が重視されました。

Ultrixは、PDP-11、VAX、そしてDECの最初のRISCシステムであるDECstationワークステーションとDECsystemサーバ向けにも提供されました。当初はプラットフォーム毎に名称が異なりましたが、PDP-11が使われなくなると、単にUltrixとして知られるようになりました。MIPS版がリリースされると、VAX/ULTRIXとRISC/ULRTIXとして区別されました。

技術的な重点は、サポート性、信頼性、CPUやデバイスドライバのサポートの改善、ハードウェア故障からの復旧、エラーメッセージの改善などに置かれました。Ultrix-32には、4.3BSDの機能、DECnet、TCP/IP、SMTPなどが追加されました。System Vのプロセス間通信機能も実装され、サンとAT&Tが共同開発したSVR4とは対照的に、System Vの機能をBSDに取り入れる形となりました。

VAXワークステーション向けには、Ultrix Workstation Software (UWS) というデスクトップ環境が提供されました。これはX Window Systemに基づき、後にX11ベースのDECwindowsに移行しましたが、UWSのルック・アンド・フィールが維持されました。

Ultrixは、マルチプロセッサシステムでも動作しましたが、完全なマルチスレッドをサポートせず、一部のタスクは特定のCPUでのみ動作しました。また、共有ライブラリのサポートが遅れるなど、最新機能の導入は他社と比較して遅れがちでした。さらに、ファイルシステムの不安定さといった問題も抱えていました。

Ultrixの終焉

OSFへの関与の一環として、DECはUltrix-32をOSF/1に置き換えました。これはAlphaベースのシステムが登場する少し前にリリースされました。OSF/1はMachベースのカーネルを採用し、Ultrixにはない機能を提供しました。UEGは、OSF/1ベースのDigital Unix（後のTru64 UNIX）をDECのハードウェア上で動作させるための開発に注力しました。

Ultrixの最後のメジャーリリースは、1995年のバージョン4.5であり、DECstationとVAX向けに提供されました。その後、Y2Kパッチがいくつかリリースされました。

まとめ

Ultrixは、DECが開発したUNIX系OSとして、BSDをベースにSystem Vの機能を取り入れ、VAXやDECstationといったプラットフォームで広く利用されました。その開発過程では、DEC内部の技術者たちの尽力と、バークレーのBSD開発グループとの協力が大きく貢献しました。しかし、市場の変化とOSF/1の登場により、その役割を終えることとなりました。

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