DECnet

DECnet：PDP-11から現代まで続くネットワークの歴史

DECnetは、デジタル・イクイップメント・コーポレーション（DEC）が1975年に開発した通信プロトコル群です。PDP-11ミニコンピュータ同士を接続するための技術として誕生し、初期のピアツーピアネットワークアーキテクチャの1つとして大きな役割を果たしました。1980年代にはDECのネットワーク市場参入の強力な武器となり、その後のネットワーク技術の発展に多大な影響を与えました。

DECnetの進化：4層から7層へ、そしてオープンソースへ

初期のDECnetは4層構造でしたが、1982年にはOSI参照モデルに準拠した7層構造へと進化を遂げました。これは、ネットワーク技術の標準化が進む中で、他社製品との相互運用性を高めるための重要なステップでした。

DECnetは当初、DECの主力オペレーティングシステムであるVAX/VMS向けに開発されましたが、その後、Ultrix（DEC製のUNIX）、そしてDEC Pathworksという製品を通して、Macintosh、DOS、Windowsを搭載したPC/AT互換機|PC_AT互換機にも対応が拡大されました。これにより、VAXを中核としたネットワークにパーソナルコンピュータを端末として容易に接続できるようになりました。近年では、Linux向けのオープンソース版も開発され、DECnetの技術は新たな展開を見せています。

DIGITAL Network Architecture (DNA) とDECnet

DECnetという名称は、DIGITAL Network Architecture (DNA) を実装したネットワーク製品全般を指して使われていました。DNAは、ネットワークアーキテクチャ全体を定義した文書群であり、プロトコルスタックの各層の仕様や運用方法が詳細に記述されています。ただし、厳密にはDECが開発した全てのプロトコルがDECnetに含まれるわけではなく、LAT、SCS、AMDS、LAST/LADなどはDNAの一部ではありますが、DECnetには含まれません。

DECnetの各フェーズ：機能拡張と標準化への歩み

DECnetは、その歴史の中でいくつかのフェーズを経て発展してきました。各フェーズでは、サポートするノード数、通信方式、機能などが拡張されていきました。

フェーズI (1974年): 2台のPDP-11（OSはRSX-11）のみサポート。通信はDDCMP（Digital Data Communications Message Protocol）による一対一リンク。
フェーズII (1976年): 最大32ノードのネットワークをサポート。RSTS、TOPS-10、TOPS-20への対応、ファイル転送機能、遠隔ファイルアクセス機能などが追加されました。
フェーズIII (1980年): 最大255ノードのネットワークをサポート。マルチドロップ型リンクのサポート、適応型ルーティング機能、ダウンライン・ローディング機能などが追加されました。
フェーズIVとフェーズIV+ (1982年): 最大64,449ノードまでの大規模ネットワークをサポート。イーサネットのサポート、階層型ルーティング、VMSクラスターサポート、ホストサービス（CTERM）、PATHWORKS（DOS/Windows向け実装）などが追加されました。OSI参照モデルに準拠した8層アーキテクチャを採用しましたが、当時OSIモデルが未完成だったため、独自のプロトコルも多数含まれていました。イーサネットの実装も独自の方法が採用され、LAN上でのルーティングが簡素化されました。
* フェーズVとフェーズV+ (1987年): アーキテクチャ上無制限のノード数のネットワークをサポート。ネットワーク管理モデルの一新、ネームサービスの追加、性能向上など。OSIへの移行が進み、マルチベンダー接続性を確保しながら、フェーズIVとの互換性も維持しました。TCP/IPとの連携も強化され、DECnet/OSI、DECnet-Plusと名称が変更されました。

DECnetのオープン性と現在

DECnetのプロトコル仕様はフェーズII以降公開されており、誰でも実装できるオープン標準と言えるでしょう。実際、DEC以外の企業や個人がDECnetを実装した事例も存在し、現在もLinux向けのオープンソース版が開発・保守されています。DECnetは、その歴史の中で様々な技術革新を取り入れながら進化を続け、現代のネットワーク技術にも影響を与え続けていると言えるでしょう。

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