Allison V-1710:第二次世界大戦を支えたアメリカの航空機エンジン
第二次世界大戦において、
アメリカ合衆国陸軍
航空隊の戦闘機を支えた名機として知られるのが、アリソン社が開発・製造した
液冷V型12気筒レシプロエンジン、V-1710です。
1929年に始まった開発は、陸軍
航空省による出力1,000馬力級エンジンという要求に応えるものでした。
世界恐慌の影響を受けつつも、
1936年には実験機への搭載、初飛行に成功。その後の量産化を経て、大戦中には数多くの戦闘機に搭載され、その活躍は、大戦の終結まで続きました。
V-1710の多様な仕様と圧倒的な生産数
V-1710は、運用高度や戦闘機の要求に合わせて、様々な仕様が開発されました。低空での運用に適した一段一速過給器型から、高高度での飛行を可能にする二段二速過給器型、さらには
ターボチャージャーを搭載した型まで、そのバリエーションは多岐に渡ります。この幅広い対応力こそが、V-1710が多くの機種に採用された理由の一つと言えるでしょう。
総生産数は70,000台以上と伝えられ、これは第二次世界大戦におけるアメリカ
航空機エンジンの生産量の中でも、トップクラスの数字です。これだけの台数が生産されたことは、V-1710が当時の
航空機産業に与えた影響の大きさを示しています。
戦闘機への搭載と革新的な設計
V-1710を搭載した戦闘機は実に多様なラインナップを誇ります。ベル社のP-39やP-63といった戦闘機では、エンジンを機体後部に搭載することで、
モーターカノンと同様の機能を持つ機関砲の発射を可能にしています。これは、当時としては非常に革新的な設計だったと言えるでしょう。
代表的な搭載機としては、以下が挙げられます。
P-38 ライトニング:アメリカ空軍を代表する長距離戦闘爆撃機。太平洋戦線、ヨーロッパ戦線双方の主要戦線で活躍。
P-39 エアコブラ、P-63 キングコブラ:ソ連への大量供与でも知られる、低空性能に優れた戦闘機。
P-40 ウォーホーク:太平洋戦線で活躍した戦闘機。
P-51 マスタング:長距離飛行能力を持つ戦闘機。ヨーロッパ戦線で活躍し、ドイツ空軍を苦しめました。
A-36 アパッチ:地上攻撃機として活躍しました。
これらの戦闘機がV-1710によって支えられ、第二次世界大戦における
航空戦に大きく貢献したことは、言うまでもありません。
戦後の転用と現代への影響
終戦後、膨大な数のV-1710が余剰物資として放出されました。これらは、競技用
モーターボートや
トラクターなどに転用され、新たな用途で活躍しました。さらに驚くべきことに、現代においても、入手困難なクリーモフM-105エンジンを搭載するYak-3やYak-9などの復元機やレプリカ機への搭載例があり、未だに稼働しているものも存在するようです。これは、V-1710の堅牢性と信頼性の高さを示す、何よりの証と言えるでしょう。
V-1710-99(V-1710-F26A)の主要諸元
ここではV-1710-99(V-1710-F26A)を例に、V-1710エンジンの主要諸元を挙げます。
諸元
タイプ:
液冷60°
V型12気筒
シリンダー直径: 5.5 in (139.7 mm)
ストローク: 6 in (152.4 mm)
総排気量: 1,710.6 in³ (28.03 L)
全長: 98.53 in (2,502 mm)
全幅: 29.28 in (744 mm)
全高: 41.18 in (1,046 mm)
重量: 1,445 lb (655 kg)
機構
バルブ機構: 気筒毎に2基の吸気
バルブ、ナトリウム冷却式排気
バルブ。ギア駆動オーバーヘッドカムシャフトにより開閉。
バルブ挟み角45°
スーパーチャージャー: 遠心式単段、インペラ径10.25 in (260 mm)、15枚羽根
燃料システム: Bendix Stromberg自動混合制御式気化器
燃料: 100 オクタン価
潤滑システム: ドライサンプ方式、圧力ポンプ1基、吸引ポンプ2基
冷却システム: 加圧された70%水と30%エチレングリコール混合冷却液
性能
出力: 1,325 hp (988 kW) at 3,000 rpm (bmep=204.5 psi)
比出力: 0.77 hp/in³ (35.3 kW/L)
圧縮比: 6.65:1
*
出力重量比: 0.92 hp/lb (1.51 kW/kg)
これらの数値は、V-1710がいかに高性能なエンジンであったかを示しています。
まとめ
V-1710は、その高い信頼性、多様な仕様、そして圧倒的な生産数によって、第二次世界大戦におけるアメリカの
航空機産業を支えた重要なエンジンでした。戦後も様々な用途で利用され、現代においてもその名を残すV-1710は、まさに
航空史に刻まれた名機と言えるでしょう。