VAAM

スズメバチの神秘：栄養交換とVAAMの開発物語

理化学研究所の阿部岳氏によって発見された「V.A.A.M.(ヴァーム)」は、スズメバチの幼虫が成虫に供給する栄養液です。Vespa Amino Acid Mixtureの略称で、スズメバチのアミノ酸混合物を意味します。この驚くべき発見は、スズメバチの生態と、そこから生まれた画期的なスポーツドリンクの物語を紐解きます。

スズメバチのユニークな摂食方法

スズメバチの成虫は、腹部と胸部の間に非常に細い腹柄と呼ばれるくびれを持っています。この構造が、固形物を摂取することを不可能にしています。そのため、成虫自身は自ら捕獲した獲物を直接食べることができません。では、スズメバチの成虫は何を栄養源としているのでしょうか？

その答えは、幼虫が分泌するV.A.A.M.です。成虫は狩りで得た獲物を幼虫に与え、幼虫はその獲物を消化・吸収し、アミノ酸を豊富に含んだ栄養液を分泌します。成虫はこの栄養液を摂取することで生きているのです。この成虫と幼虫間の栄養供給システムを「栄養交換」と呼びます。この栄養交換が途絶えると、スズメバチはわずか2～3日で死んでしまうほど、V.A.A.M.は生存に不可欠な存在なのです。

V.A.A.M.の驚くべき成分

V.A.A.M.は、その名の通りアミノ酸の混合液です。生体アミノ酸は20種類存在しますが、V.A.A.M.にはそのうち17種類が含まれています。特にプロリン、グリシン、アラニン、グルタミンといったアミノ酸の含有量が高く、これらがV.A.A.M.の特筆すべき特徴となっています。

これらのアミノ酸は、脂肪酸の代謝に関わるクエン酸回路の活性化に大きく貢献します。通常、糖質をエネルギー源とする場合、クエン酸回路が稼働し始めるまでには10数分を要します。しかし、V.A.A.M.を摂取すると、この過程が即座に開始され、脂肪の燃焼効率が飛躍的に向上することが示唆されています。

スポーツドリンク「ヴァーム」の誕生

V.A.A.M.の優れた特性に着目した明治乳業（現：明治）は、1995年にV.A.A.M.の成分を再現したスポーツドリンク「ヴァーム」を発売しました。これは、スズメバチの生態から着想を得た、画期的なスポーツドリンクとして注目を集めました。運動時のエネルギー代謝の効率化に貢献するV.A.A.M.の特性が、スポーツシーンにおいて大きな可能性を秘めていることを示しています。

まとめ

スズメバチの幼虫と成虫間のユニークな栄養交換システムから生まれたV.A.A.M.は、その成分の特性から、スポーツドリンクとしての応用が実現しました。自然界の驚異的なメカニズムが、人間の健康やパフォーマンス向上に貢献する可能性を示す、興味深い事例と言えるでしょう。今後、V.A.A.M.に関する研究が進展することで、さらなる可能性が発見されることが期待されます。

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