VP9

VP9: 高効率動画圧縮コーデック

VP9は、Googleが開発した、オープンでロイヤリティフリーな動画圧縮コーデックです。VP8の後継として開発され、高効率な圧縮と幅広い互換性を特徴としています。WebMなどのコンテナ形式と組み合わせて使用されます。

開発と目標

VP9の開発は2011年第3四半期に開始されました。開発目標は、同等の画質を保ちながらVP8と比べてビットレートを半分に削減すること、そしてH.265/HEVCよりも効率的なコーデックを実現することでした。これは、動画配信におけるデータ量削減と帯域幅の最適化に大きく貢献することを目指した野心的な目標でした。

採用状況

VP9は多くの主要ブラウザやデバイスでサポートされています。具体的には、Google Chrome、Microsoft Edge、Mozilla Firefox、Opera、Android、Safari（Apple T2チップ搭載Mac以降）など、主要なプラットフォームでデコーダーが搭載されています。また、libvpxライブラリやFFmpegなどの動画処理ツールでもエンコードとデコードが可能です。

特にYouTubeはVP9を積極的に採用しており、2017年には4K解像度の動画配信においてH.264からVP9への移行を行いました。これにより、VP9非対応のブラウザでは高解像度動画の視聴が制限される事態もありましたが、その後Apple T2チップやApple M1チップを搭載したMacではSafariでのVP9対応が実現しました。

さらに、Intel Apollo Lake世代以降のCPUや、NVIDIA GeForce 900シリーズ以降、AMD Radeon RX 5X00シリーズ以降のGPUでもハードウェアデコードに対応し、CPUやGPUへの負荷を軽減しスムーズな動画再生を実現できるようになっています。

技術仕様

VP8と比較して、VP9はいくつかの技術的な改良が施されています。64x64ピクセルのスーパーブロックを採用し、四分木コーディングを用いることで効率的な圧縮を実現しています。また、Rec.601、Rec.709、SMPTE-170、SMPTE-240、sRGBといった様々な色空間をサポートしており、幅広いコンテンツに対応可能です。

VP9には、プロファイル0とプロファイル1が存在します。プロファイル0はYUV420を、プロファイル1はYUV422、YUV444、αチャンネル、深度チャンネルなどをサポートし、より高度な映像表現に対応しています。libvpx 1.4.0以降では10ビット、12ビットの色深度にも対応しています。

特許とライセンス

GoogleはMPEG-LAと特許ライセンス契約を締結しており、VP9で使用されている技術をサブライセンスする権利を持っています。しかし、2019年にはSisvel社からVP9に対する特許クレームが提起され、多くの企業が参加する特許プールが形成されました。この特許プールは、ディスプレイデバイスやソフトウェアに対してロイヤリティを要求しています。Googleは、この特許プールを認識していますが、VP9の使用計画を変更する意向はありません。

後継コーデックAV1への移行

GoogleはVP9の後継としてVP10を開発していましたが、より多くの企業が参加するオープンソースのコーデックであるAV1（AOMedia Video 1）に統合されることになりました。AV1は、VP10、Daala、Thorといった複数のコーデック技術を組み合わせることで開発され、高い圧縮効率と幅広いサポートを特長としています。GoogleはVP10を公式にリリースすることなく、VP9をVPxベースの最後のコーデックとしました。

VP9の現状

VP9の仕様書は2016年3月31日のv0.6を最後に更新されていません。しかし、YouTubeをはじめとする多くのサービスで広く利用されており、libvpxライブラリも現在もメンテナンスが続けられています。Googleは既にAV1の開発に注力しているため、VP9の積極的な開発は行われていません。

関連項目

VP3, VP6, VP7, VP8
AV1 (AOMedia Video 1)
WebM
H.265/HEVC

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