VZ Editor

VZ Editor：MS-DOS時代の伝説的テキストエディタ

VZ Editor（ヴイゼットエディタ）は、プログラマの兵藤嘉彦氏（c.mos）によって開発された、MS-DOS環境で動作するテキストエディタです。1987年の発売以来、その軽快な動作性と高度なカスタマイズ性で多くのユーザーを魅了し、MS-DOS時代のテキストエディタ市場において大きな成功を収めました。本稿では、VZ Editorの開発経緯からその人気の秘密、そして現代における意義までを詳しく解説します。

開発の経緯と販売

兵藤氏は、名古屋工業大学卒業後、日立製作所でパソコン用テキストエディタの開発に携わった経験を持ちます。1985年には自身のパソコン用テキストエディタ開発に着手。日経MIXのアセンブラ会議での助言なども参考に、独自のテキストエディタを完成させました。その後、日立製作所を退社し、コンピュータゲーム開発などを経て、1987年にPCワールド・ジャパンより『EZ Editor』として最初のバージョンをリリース。1989年には改良版がビレッジセンターより『VZ Editor』として発売されました。ビレッジセンターは当時、アメリカのフリーソフトウェアやシェアウェアを販売しており、開発者である兵藤氏を前面に出したユニークな販売スタイルが採られました。この販売方法や、開発者による直接的なユーザーサポートも、VZ Editorの人気を支える要因となりました。

VZ Editorが人気を博した理由

VZ Editorが多くのユーザーから支持された理由は、その優れた機能と性能にあります。

軽快な動作性: シンプルな設計により、他のテキストエディタと比較して非常に軽快な動作を実現しました。これは、当時まだ主流だったフロッピーディスク環境において大きなメリットでした。
高度なカスタマイズ性: 設定ファイルの編集により、画面表示、メニュー、キー設定などを自由にカスタマイズすることが可能でした。さらに、強力なマクロ機能により、ユーザー自身で独自の機能を追加することもできました。
強力なマクロ機能: VZ Editorのマクロ機能は当時としては非常に強力で、キーボードマクロの編集・保存、そしてそれらを用いた高度な自動処理が可能でした。マクロを用いて簡単なゲームを作成することも可能だったため、プログラマの間で高い評価を得ました。
常駐モード: メモリー常駐機能により、MS-DOSプロンプトからEscキーを押すだけで迅速に起動できる点が大きな特徴でした。当時、ハードディスクが普及しておらずフロッピーディスクでの運用が一般的だったため、この機能はエディタの利用効率を大幅に向上させました。さらに、コンソールの入出力をフックする機能により、バックスクロールや出力情報のファイルへの保存などが可能になり、作業効率の向上に大きく貢献しました。
* 安価な価格: 競合製品が数万円する中、VZ Editorは9800円という比較的安価な価格で販売されました。この価格設定も、多くのユーザーを獲得する上で重要な要素となりました。

コミュニティと発展

VZ Editorは、パソコン通信を通じてユーザーコミュニティを形成しました。日経MIXやNIFTY-Serveなどで活発な意見交換が行われ、ユーザーからのフィードバックが積極的に開発に反映されました。ユーザーが作成したマクロの公開なども盛んに行われ、ユーザー自身の手によってVZ Editorは進化を続けました。特に、高千穂遥氏などの文筆家による支持は、VZ Editorがプログラマ向けのツールから、一般の文章作成ツールとしての認知度を高めることに貢献しました。ソースコードが付属していたことも、ユーザーによる改造や移植を促進し、様々なプラットフォームへの対応が広がる要因となりました。

後継ソフトとオープンソース化

1993年、兵藤氏はVZ EditorのバージョンアップやWindows版開発をしないことを表明しました。プログラムサイズが大きくなるとマクロバッファが小さくなり、既存マクロが動作しなくなるといった技術的な理由に加え、Windowsへの移行には過去のしがらみを捨てる必要があるという開発者の信念がありました。1994年にバージョン1.6が最終版としてリリースされた後、ビレッジセンターからはWindows用のテキストエディタWz Editorが発売されましたが、これは兵藤氏の手によるものではありません。2024年11月には、VZ Editorのソースコードが3条項BSDライセンスのもとオープンソースソフトウェアとして公開されました。

結論

VZ Editorは、その優れた機能性と、ユーザーコミュニティとの緊密な連携によって、MS-DOS時代のテキストエディタとして大きな成功を収めたソフトウェアです。軽快な動作性、高度なカスタマイズ性、そして強力なマクロ機能は、多くのユーザーを魅了し、その後のテキストエディタ開発にも大きな影響を与えました。オープンソース化されたことで、現在でもそのソースコードを研究したり、新たなプロジェクトに活用したりすることができるようになりました。VZ Editorは、単なるテキストエディタではなく、一つの時代を築いたソフトウェアとして、これからも語り継がれていくことでしょう。

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