WHO'S KNOCKING ON MY DOOR

浅川マキのキャリアにおいて、表現者としての円熟期を迎えつつあった1983年8月1日に発表されたのが、通算15作目となるアルバム『WHO'S KNOCKING ON MY DOOR』である。東芝EMIのEXPRESSレーベルからリリースされた本作は、その後の浅川マキの活動においても重要な位置を占める作品となった。

制作背景と参加メンバー

本作のプロデュースは、当時第一線で活躍していた後藤次利が担当した。彼の手腕により、浅川マキの独特な世界観はさらに研ぎ澄まされたサウンドを得ることとなった。演奏陣も豪華で、トロンボーンに向井滋春、サックスやフルート、ピアノに本多俊之、ドラムスにセシル・モンロー、チェロにトリスタン・ホンシンガーといった気鋭のミュージシャンたちが集結。さらに、ギターに大村憲司、シンセサイザーに国吉良一、シンセサイザープログラマーに松武秀樹といった実力者たちが名を連ね、浅川マキの孤高かつ先鋭的な音楽性を支えている。

作品のテーマと時代背景

アルバムは、そのタイトルが印象的だが、同名の楽曲は収録されていない。代わりに、寺山修司作詞による「戸を叩くのは、誰」という楽曲が別のアルバム（『MAKI VI』）に存在しており、本作のタイトルは、この年に逝去した寺山修司へのオマージュ的な意味合いも含んでいると解釈されることが多い。1983年は浅川マキにとって非常に活動的な一年であり、本作の発表に続き、10月には自身初の他者プロデュースとなる長谷川きよし『ネオン輝く日々』を、12月には本多俊之とのデュオアルバム『幻の男たち』をリリースするなど、精力的な創作活動を展開した年であった。

収録曲の魅力

アルバムに収められた楽曲は、浅川マキ自身が作詞・作曲を手がけたもの、後藤次利との共作、そして本多俊之との共作がある。特に印象深い楽曲としては、「時代に合わせて呼吸をする積りはない」が挙げられる。この楽曲は、俳優の原田芳雄が発したとされる言葉に触発されたものであり、浅川マキ自身もその言葉に深く共感し、晩年まで度々引用するなど、彼女自身の生き様を示すようなメッセージが込められている。本作の先行シングルである「コントロール」とそのカップリング曲であった「時代に合わせて呼吸をする積りはない」も収録されており、「コントロール」は後に研ナオコによってカバーされるなど、その楽曲の持つ力が示されている。「まだ若くて」には、往年の名優であるイヴ・モンタンとシモーヌ・シニョレが歌詞に登場し、映画的な情景を描き出している。なお、2011年のCD復刻盤では、マスターテープの経年劣化により、この曲の冒頭で一瞬音声が途切れる箇所が存在する。

制作スタッフとクレジット

レコーディングとミキシングは、名エンジニアとして知られる吉野金次が担当。坂元達也がセカンドエンジニアを務めている。アルバムのアートワークは田村仁が写真を、荒井博文がデザインを手がけ、浅川マキの持つ独特の雰囲気を見事に視覚化している。これらのスタッフワークが一体となり、作品全体の完成度を高めている。

復刻とCD化

本作は、長らくオリジナル盤LP以外では入手が困難な時期があったが、2011年1月に70年代のアルバム10作、同年6月には本作を含む80年代のアルバム14作が、デジタルリマスタリングされた音源に、オリジナルLPの仕様を再現した紙ジャケット形式で復刻された。この復刻シリーズにより、『WHO'S KNOCKING ON MY DOOR』は初めて単独でCD化が実現した。ただし、復刻盤の帯はシリーズ共通の新しいデザインに統一されており、オリジナル盤に付属していた帯や、本作以降のLPに添付されていた帯代わりのステッカー（シール）は再現されていないという仕様になっている。

作品の意義

『WHO'S KNOCKING ON MY DOOR』は、浅川マキがその揺るぎない音楽性と独自の表現世界を確立していた時期の重要な作品であり、後藤次利をはじめとする一流のミュージシャンやスタッフとの共同作業によって生まれた、聴きごたえのある一枚である。寺山修司への想いを滲ませつつ、自身の哲学を鮮やかに描いたこのアルバムは、今なお多くの音楽ファンに愛され続けている。

もう一度検索